二話(1)

そのルビーは、はるか昔、東の国で採れたのだという。  もとは一個の大きな石だったそれは、大小合わせて三十個の粒に分割され、美しいカットを施されて、薔薇の模様をかたどった首飾りへと姿を変えた。  買い取ったのは、サーヒル王国の、とある貿易商人。以後、首飾りはその家に代々大切に受け継がれることとなる。  ――四十年ほど前、早くに両親を亡くした青年アリーが、若くして当主の座と首飾りを継いだ。  頼る身寄...

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二話(2)

びくりと体が震えて、目が覚めた。  気がつくと、辺りは嘘のように明るい。――見慣れた光景。自分の部屋だ。  夢……?  ライラは起き上がり、大きく息を吐いた。  目覚める直前まで、何か夢を見ていたようで、体が変に重苦しかった。おぼろげな記憶で、何かに追われているような夢だったような気がする。 「……あー……」  よほど寝過ごしていなければ、今日は王宮の宝物庫に忍び込んで、三日目の朝のはずだ。  泥...

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二話(3)

 あと少しだと喜んでいられる状況でもない。まさか献上品にまで混じっていたとなると、残りの四個も、どうなっているか知れたものではない。 ライラがため息をついていると、侍女が洗面の水を持って入ってきた。 「おはようございます、ライラ様、起きてくださいませ……あら、失礼しました。起きておいででしたか」 「おはよう、マルジャーナ。今日はいつもの仕事以外に、何か予定があったわよね」 「ムーサーさんが商談に...

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二話(4)

「今日の午後は宝石と絹織物の在庫確認をするわ。後で目録の用意をしておいて」 「かしこまりました」  簡単に朝食を済ませ、ライラは使用人たちに挨拶してまわりながら、屋敷の表にある店のほうへと出た。店頭はすでに、陸揚げしたばかりの異国からの品々を買い取ってもらおうという商人らで、ごったがえしている。 「あ、ライラ様! おはようございます。マスウディーが目録を持ってまいりました」 「ありがと。サミクに...

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二話(5)

 夢よ。夢に決まってるわ。これはあの悪い夢の続きで、あたしは、まだ起きてないのよ。ほら、こうして頬をつねったら―― 「……い、痛い……」  うっかり両頬をつねってしまい、あまりの痛さに、ライラは顔を押さえてうずくまった。自分の頬なのだから、手加減すべきだった。 「ライラ様――どうなさったんですかっ?」  追ってきたマルジャーナは、ライラが涙を浮かべているのを見て、ぎょっとする。 「つねったら痛くて...

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二話(6)

「……」  ひくりと、頬が引きつった。  おそるおそる見上げると――もうターバンを外したその顔は、やはり例の番人と同じ顔。 「なっ……なんで……」  いつのまに、家の中まで入ってきたのだろう? 「なんで?」  男はくつくつと喉の奥で笑い、身を屈めてライラの目を覗き込んだ。この声、この笑い方、間違いない。 「――へぇ、なかなか美しい瞳をしてたんだな。ペリドットの色だ」 「ペリドット……」  黄色がか...

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二話(7)

「……つまり? 都に遊びに行ったのではなく? ルビーを見つけるために? 宮殿の宝物庫に忍び込んで? そこでシャルディーン王子にお会いしたと? そう仰るわけですね?」 「でも、でもねっ、マルジャーナ! あたし、王子だなんて全っ然知らなかったのよ! だってこのひと、自分のこと宝物庫の番人だなんて――」 「問題はそこじゃありません!!」  あまりの剣幕にライラは悲鳴を上げて頭を抱えたが、マルジャーナは構...

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