二話(7)
「……つまり? 都に遊びに行ったのではなく? ルビーを見つけるために? 宮殿の宝物庫に忍び込んで? そこでシャルディーン王子にお会いしたと? そう仰るわけですね?」
「でも、でもねっ、マルジャーナ! あたし、王子だなんて全っ然知らなかったのよ! だってこのひと、自分のこと宝物庫の番人だなんて――」
「問題はそこじゃありません!!」
あまりの剣幕にライラは悲鳴を上げて頭を抱えたが、マルジャーナは構うことなく目を吊り上げる。
「御自分がどんな危険なことをされたのか、わかってらっしゃるんですか!? 普通ならその場で捕まって縛り首ですよ!?」
「で……でも、ちゃんと帰ってきたし……」
「運が良かっただけです!!」
そのとおり。
ライラは客間の隅で、これ以上はできないくらい身を縮める。
「まったく、無茶なことを……」
「ほほほ……ライラってば、相変わらずお転婆さんねぇ」
ハウマーンは娘に説教しようとしたものの、侍女に先を越されてしまい、結局ため息をついてぼやくだけになり、母のラハリーヤは娘の無謀さをわかっているのかいないのか、おっとりと笑っていた。
「笑いごとではありません、奥様。ライラ様はあのルビーのこととなると、見境がないんですから」
「ほんとにねぇ。ライラ、みんなに心配かけてはいけないわ。後でよくお謝りなさい」
「はーい……」
うなだれるライラを、大きなクッションにゆったりと腰掛けた、宝物庫の番人――否、王子だというシャルディーンが、面白そうに眺めている。
もう一度ため息をついて、ハウマーンがシャルディーンのほうに向き直った。
「御覧のとおり、まだ子供でございます。王子が我が娘の婿にと仰ってくださいましたことは、光栄とは存じますが……」
……婿?
「ちょっと」
小さくなっていたライラが、むくりと顔を上げる。そういえば、さっきサミクも、婿になりたいとかどうとか言っていたが――
「何か、おかしな話してない?」
「旦那様、いまのお話は、つまり……」
怒っていたマルジャーナも、不安そうに主人夫婦と客人を見た。
ハウマーンはひとつ咳払いをして、姿勢を正して座り直す。
「ライラ。こちらのシャルディーン王子はな、その、おまえが三日前に無茶をした
ときに、おまえを見初められたそうで――つまり、おまえを妻にしたいと……」
「……」
聞き間違いじゃなかった……。
青ざめたライラに、マルジャーナがすかさず前に出た。
「お待ちください。いくら王子のお申し出とはいえ、ライラ様には、ハーシム様が……ずっと以前から婚約されているお相手がおいでです。そのことは――」
「ああ、相手はこのまえジャバルの長官に出世した、ファズルの次男だと聞いたが」
「お聞きでございましたら……」
「聞いたが、まだ、結婚しているわけではない。――そうだな?」
シャルディーンはライラのほうを向き、唇の片端を上げて笑った。
「だっ……だって、ハーシムさんがうちに来るのは、あたしが十七になったらっていう約束で……」
「それもさっき父御から聞いた。が、どうだ? そのファズルの次男坊より、おまえは俺を婿にしておくほうがいいと思うが」
「どうして」
「どうして?」
あぐらをかいた膝の上に片肘をつき、頬杖をしてライラを眺めるシャルディーン
の様子は、いかにも楽しげだ。
「そうだな。……まず、どうやって俺がおまえの正体を知ったか、教えてやろうか」
「え……ええ」