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      <title>小学館：ルルル文庫／WEB小説_アラビアンローズ 〜ライラの受難〜</title>
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      <description>ルルル文庫WEB小説</description>
      <language>ja</language>
      <copyright>Copyright 2011</copyright>
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            <item>
         <title>一話（１）</title>
         <description>　足の裏に、冷たい石の感触。
　辺りはとても静かで、静かすぎて、自分の鼓動がやけに耳に響く。
　風通しの小窓から差し込む月光に、部屋の中にある物が、ぼんやり青く浮かんでいた。
　箱。――大小さまざまの箱が、天井まで届く棚に、無数に並べられている。
　部屋に入ったときに強く感じた黴臭さは、呼吸を繰り返すうち鼻が慣れてきたようで、いまは、さほど気にならない。
　……早く戻らなくちゃ。
　まさか、こんなことになるとは思わなかった。でも、もしかしたらこれは、絶好の機会なのかもしれない。そう、きっと、『ラティマの薔薇』が呼んでいるのだ。
　ライラははやる気持ちを抑え、手のひらに乗るくらいの箱を選び、物音を立てないよう、そっと手に取った。慎重に蓋を開くと、中には腕輪らしきものと、紙切れが一枚。
　ユーナーン王の治世二十四年、八の月、ブハイラの長官ハサンより献上――
　違う。いや、当てずっぽうで開けてみた箱なのだから、違っていても仕方がないのだが、ユーナーン王は前国王だ。探すものが献上されたのは、現国王の即位から二年後ぐらいだというから、この棚にあるものは古すぎる。
　箱を元に返して、ライラはゆっくりと、体の向きを変えた。
　……前の王様が亡くなられたのは、在位二十八年目。だから、いまの王様の即位二年目の棚は、たぶん、もうちょっとこっちへ戻って……。
　ふいに鳥のはばたきが聞こえて、ライラはびくりと足を止めた。
　……驚かさないでよ、もう！
　夜に飛びまわる鳥に心の中で悪態をついて、もう一度きちんと落ち着くために、深呼吸する。――やはり、黴臭い。目のところだけが開いているヴェールの上から鼻を押さえたが、ヴェールに焚き染めた愛用の香の匂いも、負けてしまいそう
だ。
　棚を四列戻り、もう一度、小さな箱を選んで、蓋を開ける。
　ユーナーン王の治世二十六年、六の月――
「……あれ？」
　思わず、声が出ていた。
　棚ひとつで一年分の献上品、というわけではないのだろうか。だとしたら、あとどれくらい戻ればいいのだろう。
　焦りが出ていた。見つけたいのは、たったひとつなのに。
ライラは唇を噛み、もう二列分、戻った。考えている間に、ひとつでも多く箱を確認して、目指すものに近づくべきだ。気は急くが、落ち着きを失ってはいけない。大丈夫、きっと見つけられる。
　次々と箱の蓋を開け、献上の時期を確認しては、棚に戻す。
これも、これもユーナーン王期のものだ。違う。指輪でも腕輪でもない。ダイヤモンドでも、エメラルドでもない。探しているのは――
　ふいに手元が暗くなった。振り返ると、小窓から見えていた満月に薄雲がかかっている。
　ライラは手探りで箱を元に戻し、背筋を伸ばして、軽くため息をついた。そのままじっと、雲が切れるのを待つ。
　……もしかして、棚の上のほうにあったりして。
　だとしたら、少々厄介だ。自分の背丈では、どんなに手を伸ばしても、最上段に
は届かない。踏み台か何か、あるだろうか。
　雲が風に流され、再び満月が現れる。明るさを得て、ライラはまず踏み台を探してみようと顔を上げ――
「……っ!!」
　男が立っていた。目の前に。
「探し物は、まだ見つからないようだな」
　若い男だ。二十歳ぐらいだろうか。背が高く、肩幅もある。拳闘士ほど筋骨隆々というわけではないが、腕を見れば、充分に鍛えていることはわかる。女の自分が闘っても、間違いなく勝てない。
　……どうしよう。</description>
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         <category>001一話</category>
         <pubDate>Thu, 25 Oct 2007 15:23:47 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>一話（２）</title>
         <description>「どうした。何を探してる？」
　宝物庫の外には、番兵の姿などどこにもなかった。まさか、中に見張りがいたなんて。
　ライラはじりじりと後ずさりした。……大丈夫、こちらはヴェールをしている。顔は見られていない。見つかってしまった以上、ひとまず逃げるしかない。
無意識に、心臓のあたりを手で押さえていた。激しい鼓動が手のひらに伝わる。「逃げるつもりか。ま、そうだろうな。けど、まだ探し物は見つけてないんだろ
う？」
　見つけられなかったけれど、仕方がない。
　ライラはひらりと、身を翻した。まっすぐ出入口に向かって走り――
「気が早いな」
「！」
行く手は、男に塞がれていた。
「焦って帰らなくてもいいだろう。何を探してる？　この中なら、俺は詳しいぞ。手伝ってやろうか」
　……え？
　ライラは思わず、男の顔を見上げた。
　彫りが深く、とても目鼻立ちがはっきりして見えるが、造りが端整なのか、くどい感じがしない。むしろ印象は涼やかで、笑みを浮かべた口元には愛嬌もある。
　宝物庫の見張り番にしておくのは、ちょっともったいないんじゃないの？　――などと、つい思ってしまって、ライラははっと身構えた。
　男は微笑を苦笑に変えて、額を掻いた。
「女だろう？　――見ればわかる。いくらヴェールで顔を隠してても、その体つきは女だな。それも、かなり若そうだ。残念ながら、腕っぷしでは俺に勝てないと思うぞ。力ずくで逃げるのは、諦めたほうがいい」
　そんなことはわかっている。でも、捕まるわけにはいかない。
「王宮の宝物庫に忍び込むなんて、いい度胸だ。値の張るものでも手をつけないで、献上書ばかり見てたな。ただの盗っ人じゃないのはわかった。それで、何を探してる？」
「……」
　盗っ人――
　そうだ。こんなこと、やっぱり泥棒のやることだったのだ。
「言っておくが、俺は兵士じゃないぞ」
　兵士じゃ、ない？　見張り番ではないのだろうか。いや、こちらを油断させようとしているのなら、そのまま信じるわけにもいかないが。
「けど、おまえがただの盗っ人なら、もちろん捕まえなくちゃならない。捕まえるも見逃すも、おまえの目的次第だ」
　見逃す？　見逃す気があるのだろうか、この状況で。
　ライラは黙ったまま、なお身構えていた。武器らしい武器など持っていない。頼みとなるのは、足の速さと、己の運だけだ。
　男は苦笑したまま軽く息を吐き、腕組みをした。
「喋らないか。ま、それが普通だな」
　いかにも話の途中というときに、突然、男が床を蹴った。しまった、と思う瞬間には、男の腕に、腰をがっちり抱えられていた。
「きゃ……」
「何だ、若いとは思ったが、まだ子供か」
「やだっ、ちょっと、どこ触ってんのよ！」
「あー、これじゃあせいぜい、十二、三歳……」
　ぷつん――と、こめかみのあたりで、何かが切れる。
「し、失礼な！　あたしは十六よ！」
「十六ぅ？　そりゃ発育不全……いてっ、おい、暴れるな、痛い！」
「どうせ胸ないわよ、悪かったわね！　放しなさいよっ、ぶっ飛ばしてやる!!」
「いや、別になくて悪いってことは……痛い痛い痛い、わかった、気にしてたなら謝るから、暴れるなって！　棚が崩れたら後が面倒だろうが！」
「棚が何……あ」
　忘れてた。ここは――
　一瞬緩んだ男の腕を振りほどき、駆け出した。
　ところが、絹が頬をすべる感触とともに、ヴェールが頭から脱げ落ちる。
「……っ！」
　思わず、ライラは振り返ってしまった。
　男と、目が合う。
　その手には、ライラの被っていたヴェールが握られていた。
　いけない……！
　ライラはとっさに顔を背け、近くの棚の陰に身を隠した。
　いま、顔を見られただろうか。一瞬だったし、部屋は暗い。よく見えなかったはずだと信じるしかないが、さらにまずいのは、ヴェールを奪われてしまったこと
だ。
「か――返して！」
「……さて、どうしようか？」
　男の口調は、明らかにこの状況を楽しんでいる。悔しかったが、このまま帰るわけにはいかない。ライラは再び顔を見られないようにうずくまり、手だけを男のほうに伸ばて叫んだ。
「返しなさい！　女性のヴェールを剥ぎ取るなんて、失礼極まりないことだって、誰もあなたに教えなかった？」
「そのくらい承知してる。が、盗っ人に対する礼儀は、あいにく持ち合わせてないもんでな」
「っ……」
　どう言い返しても、分が悪い。盗っ人という言葉が、重く肩にのしかかる。　でも――
「……あたしは、取り戻したいだけよ」
「ん？」
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         <category>001一話</category>
         <pubDate>Mon, 29 Oct 2007 00:00:33 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>一話（３）</title>
         <description>　男の靴音が、近づいてくる。
「こ……来ないで！」
　だが男が足を止める気配はなく、ライラは膝を抱えて顔を伏せた。
　顔を見られて、正体を知られて、盗みの罪で捕まるわけにはいかない。そうでなくても、大人の女性は、滅多なことで男性に素顔をさらしてはいけないと、きつく言われているのだ。
もう十六歳なのだから。顔を見せてもいいのは、父親とか、いずれ夫となる相手とか……。
　あの人、には……まだ、見せてない、けど――
「……何か事情があるなら、話してみないか」
　すぐ側で靴音は止まり、ふわりと、何か頭に被せられた。顔は上げずに、おそるおそる、それに触れてみる。
　……あ。
　あたしの、ヴェール。
「見てないから、被れ」
「……」
　薄目を開けてそっと窺うと、男はすぐ横の棚に寄りかかっていたが、顔は背けていた。
　……変なひと。
　真夜中、王宮の奥の宝物庫に侵入した者がいるというのに、外の見張りを起こしもせず、捕らえられる好機だというのに、のん気にヴェールを返したりする。
「……あなた、何者？」
「それは俺のほうが、おまえに訊くことだと思うが」
「あなたも泥棒？」
　男は、声を立てて笑った。
「あいにく、おまえのお仲間じゃないな」
「だって、兵士じゃないんでしょ」
「兵士じゃないが、俺は……まぁ、宝物庫の番人だ」
「……ふぅん」
　ヴェールを被り直し、ライラは大きくため息をついた。何だか気が抜けてしまった。
「番人なら、ほんとにこの中は詳しいの？」
「ああ」
「……いまの王様が即位二年目に献上されたものって、どのあたりにあるの？」
「いまの？　ドゥーンバーン王期の献上品なら、別の部屋だぞ」
「え!?」
　ライラが勢いよく立ち上がり、男も振り向いた。
「じゃ、じゃあ、この部屋は……」
「先代ユーンナーン王期の献上品しか納められてない」
「うーそー……」
　ライラは再び、うずくまってしまった。せっかく入り込んだのに、見当違いのところを探していたとは。
「何だ、ドゥーンバーン王期のものを探してたのか」
「だって……ここ、鍵が開いてたから……」
「残念だったな。ちなみに鍵を開けておいたのは、俺なんだが」
「え？」
　男が腰帯の中から、鍵の束を取り出した。
「俺が鍵を開けて、先に入ってた。後からおまえが入ってきた。納得したか？」
「あ……あなた、いたの!?」
　気配は、全然しなかったのに。
　男は喉の奥でくつくつと笑って、ライラを見下ろした。
「いよいよ本職の盗っ人じゃなさそうだな。けど、何故こんな真似をしてるんだ？
誰かに、ここから何か盗んでこいと言われたのか」
「……違うわ」
　また男と目が合って、ライラはすぐに、視線を逸らす。
「誰にも、何も頼まれてない。あたしの意思で、ここに来たのよ」
「おまえの？　何のために」
「……」
　黙り込んだライラに、男は、じゃらじゃらと音を立て、鍵束を振ってみせる。
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         <category>001一話</category>
         <pubDate>Fri, 02 Nov 2007 00:00:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>一話（４）</title>
         <description>　黙り込んだライラに、男は、じゃらじゃらと音を立て、鍵束を振ってみせる。
「別に、全部話せとは言わないさ。ただ、話の内容によっては、俺はおまえを捕らえもしないし、ドゥーンバーン王期の部屋を開けて、目的のものを探してやってもいい」
「……ずいぶん寛大じゃない」
「寛大すぎて信用ならないか？」
　男は笑って、鍵束から、ひとつを選び出した。
「夜は長い。退屈してた。そこに麗しき女盗賊の登場だ。俺としては、宝物の三つ四つは盗まれても、楽しい夜を過ごせるほうが、よっぽど価値がある」
「……三つも四つもいらないわよ」
　おかしな番人だ。宝物が盗まれたら自分の責任になるだろうに、楽しいほうがいいなどと――もっとも、これだけたくさんの宝物があるのだ。案外、本当に三つ四つなくなったところで、誰も気づかないのかもしれないが。
「ひとつでいいの。……たぶん、何個もないと思うし」
　ライラは立ち上がり、小窓から夜空を見上げた。月のあるうちに、何とかしなくてはならない。
「……昔、あたしの先祖が、珍しい宝石で作られた首飾りを持っていたのよ」
「珍しい？」
「ルビーよ。……とても美しい色の」
　ほんの少し紫がかった、とても深い、赤の色――
「……でも、あるとき先祖が誰かに騙され、首飾りを奪われて、ルビーはばらばらにされて、売られてしまった」
「ああ――つまり、その奪われたルビーが、ここにあるってことか」
　男は頷いて、ゆっくり歩き出した。目で促され、ライラも後についていく。
「買い戻せるものは、買い戻してきたわ。でも献上品じゃ無理でしょ」
　一応、役所に申請は出したのだ。だが、王への献上品を検めさせてほしいなどという願いは、しょせん聞き入れてもらえるものではなかった。
「けど、不当に奪われたものなら、相手を訴えれば取り戻せるだろう」
「その相手がわからないのよ。ずいぶん転売されてしまって……。献上品にされたらしいっていうことだって、やっとわかったのよ」
　男が部屋の扉を開け、ライラに先に出るように促した。ユーナーン王の宝物庫の鍵を閉め、廊下を挟んだ向かい側の部屋の鍵を開ける。
「こっちがドゥーンバーン王期の宝物庫だ。即位二年目だったな？　二年目の、いつごろかわかるか？」
「……そこまでは……」
　部屋に入ってみると、こちらは、さほど黴臭くなかった。確かにさっきの部屋は、時期が古かったらしい。
「珍しいルビーか。大きさは？」
「はっきりとはわからないけど……たぶん、そんなに大きくないと思うわ」
「ふーん……」
　男は何かを思い出そうとしているように考え込み、しばらくして、通路を歩き出した。
「即位二年目の棚はこのあたりなんだがな。せめて献上したやつの名前がわかれば――」
「あ、ジャウダル」
「ん？」
「去年内政事務官に出世した、ジャウダルよ」
「ああ、あのジャウダルか」
　男は素早く棚に目を走らせ、小箱のひとつを手に取った。
「ん、これじゃない。……こっちか」
　同じくらいの大きさの箱を取り直して、蓋を開ける。
「……ドゥーンバーン王の治世二年、三の月、ガーバの次官補佐、ジャウダルより献上」
「！　それっ……見せて！」
　ライラは男から引ったくるようにして、箱の中を覗いた。
　布の上に、小さな石が、ひとつ。
　あった――
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         <category>001一話</category>
         <pubDate>Mon, 05 Nov 2007 00:00:12 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>一話（５）</title>
         <description>「それで間違いないか？」
「……」
　返事が声にならず、ライラは何度も頷いた。男も目を細めてライラの手元を覗き込んだが、首を傾げる。
「暗くてよく見えないだろう。本当にそれでいいのか？」
「いいの。わかる。……あたしには、わかる」
　男の言うとおり、窓から射す月明かりだけでは、石はルビーかどうかすら、判別できない。だがライラの直感は、それが本物だと告げている。
　……あなたも、わかるでしょう。あたし、ラティマの血を継ぐ者よ。
　ライラは心の中でルビーに語りかけながら、そっと指先で触れてみた。紛れもなく本物だ。この石の感覚は、手が憶えている。
「寂しかったでしょ。……こんなところで、たったひとつで……」
　涙が出そうで、ライラは幾度も瞬きする。
　もう一度、役所に頼んでみよう。間違いなくここにあるとわかつているのだから、聞き入れてもらえるまで何度でも――
「……持っていけ」
「えっ？」
ライラは男を振り返る。青い闇の中、男は不思議なほど真面目な顔で、ライラを見ていた。
「おまえのルビーなんだろう。持って帰ればいい」
「だ……だって、これは王様への……」
「こんなところで埃を被ってるんだ。誰も気づきゃしないさ。――おまえは、それを取り戻すつもりで、わざわざ忍び込んだんじゃないのか？」
「違うわ。そりゃ、取り戻せたらそうしたいけど、あたしはただ、本当にここにあるのかどうか、確かめたくて……」
「確かめるだけで盗っ人の真似事か？　それは割に合わないだろう。これだけの危険を冒してるんだ。盗っていけばいい」
　からかっているのかと思えば、真顔で言っている。どういうつもりなのか。
「あなた、ここの番人なら、そんなこと言うものじゃないわ。あなたの役目は、あたしを捕まえることじゃないの？」
「そうだな」
　捕まえる意志があるようにも、ただの相槌のようにも聞こえる返事だった。
「おまえ、俺に捕まりたいのか？」
「捕まるのは困るわ」
「正直だな」
「本音よ。あたりまえでしょ」
「そうだろうな」
　その笑い方が癖なのか、くつくつと喉の奥で笑い、男は腕組みをする。
「だったら、もっと正直に返事してみたらどうだ。――そのルビーが、欲しくないのか？」
「それは……」
　ライラは、箱の中の石を見つめた。……ラティマの心の、かけらのひとつ。
「……欲しいに決まってるじゃない」
「よし」
　男はライラから箱を取り上げ、箱はもとの棚に戻して、ルビーをライラの手に握らせた。
「これは、おまえのものだ」
「……」
　大きな手が、ルビーごとライラの手を包み込み、握りしめていた。
　手が熱い――
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         <category>001一話</category>
         <pubDate>Fri, 09 Nov 2007 00:00:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>一話（６）</title>
         <description>「あ……あなたは……どう、するの」
　ライラはひったくるようにして男の手を振りほどき、ルビーを後ろ手に隠した。
「俺？」
「泥棒を、逃がしたら、あなたが……」
「なるほど。それは確かに、俺の失態だな」
　ちっとも重大なこととは思っていないような口調で、男は頷いた。
「そうだな。じゃあ……一日だけ、猶予をやろうか」
「猶予？」
「そう、猶予だ。この夜が明けてから一日だけ、俺はおまえを見逃してやる。ただし――」
　ぐっと身を屈めて、男がライラの目を覗き込んだ。
「次におまえが俺と出会ったら、そのときには、必ず捕まえてやる。……いいか、必ずだ。どんな方法を使っても逃がさないから、覚悟しておけ」
　それは決して脅しめいた口調ではなく、まるで秘密の約束をするようなささやきで、それなのに、有無を言わせぬ気迫を感じて、ライラは一歩、後ずさりした。
「……あ……明日のうちは、見逃して、くれるのね？」
「明日のうちだけは、な」
　ゆっくりと呼吸して、ライラは速まる鼓動を落ち着かせようとする。
　一日、いや、半日でも時間があれば大丈夫。
「……いいわ。あたしだって、明日のうちに、きっと逃げきってみせるから」
「できるのか？」
「できるわ」
　さっき顔は見られてしまったが、一瞬だけのことだ。この暗がりで、正体が知れるはずはない。……念のため、しばらく都には来ないようにすればいい。
　捜せるはずがない。この広いサーヒル王国で、ほとんどの女性が外出のときにはヴェールを被っているというのに。
　男はにやりと笑って、身を引いた。
「楽しみだな。――俺を甘く見ないほうがいいぞ」
「そ……そっちこそっ」
　ライラは負けじと胸を張って、つんと横を向いた。
　ふと窓の外を見ると、月がだいぶ傾いている。――いけない。長居しすぎた。目的を達したら、すぐにも出なくてはいけないのに。
「帰るのか？」
「ええ」
「夜は長いんだ。ゆっくりしていけばいいだろう」
「ゆっくりできると思う？」
「ま、無理だろうな」
　苦笑して、男もライラとともに、出入口に向かって歩き出す。
「しょうがない。残りの夜は、独りで退屈に過ごすとするか」
「……あなたって、ほんとにここの番人？」
「もちろん」
　ライラが扉の前に立つと、男は召使いのように、うやうやしく戸を開けた。
「どうぞ、真夜中の姫君。またの御訪問を、お待ちしております」
「残念ながら、二度とお会いしませんわ」
　外へ出て数歩行き――ライラは、振り返った。
　男は腕組みをしたまま扉にもたれ、こちらを見送っている。
「……これだけは言っておくわ」
「ん？」
「ありがとう、見つけてくれて。……おやすみなさい」
　男が何か言う前に、ライラは身を翻した。そのまま闇の中へと、駆けていく。
　その姿が消え、もう砂を蹴る足音さえ耳に届かないほど遠のいても、男がそこで見送っていたことを、ライラは知るよしもなかった。
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         <category>001一話</category>
         <pubDate>Mon, 12 Nov 2007 00:00:59 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>二話（１）</title>
         <description>そのルビーは、はるか昔、東の国で採れたのだという。
　もとは一個の大きな石だったそれは、大小合わせて三十個の粒に分割され、美しいカットを施されて、薔薇の模様をかたどった首飾りへと姿を変えた。
　買い取ったのは、サーヒル王国の、とある貿易商人。以後、首飾りはその家に代々大切に受け継がれることとなる。
　――四十年ほど前、早くに両親を亡くした青年アリーが、若くして当主の座と首飾りを継いだ。
　頼る身寄りのないアリーだったが、家業の貿易商は順調で、それなりに財を成し、シャーティに住む美しい娘と結婚も決まった。
　婚約者の名は、ラティマ。
　アリーは愛情の証しに、家宝の首飾りを『ラティマの薔薇』と名付け、婚約者に贈った。
　結婚したアリーは、新たな船を買い、東方貿易に乗り出した。うまくいけば巨万の富を得られるはずだったが、運悪く所有していた貿易船が一隻残らず海難事故に遭い、逆に全財産を失い、さらに船を買ったときの借金の形に、『ラティマの薔薇』までも取られてしまった。
　悲嘆のあまりアリーは、新妻のラティマを残して病死してしまう。
　ラティマもすっかり気落ちして病がちになり、シャーティの実家に戻っていたが、しばらくして、以前アリーの家に仕えていた者から、驚くべきことを知らされた。
　海に沈んだはずのアリーの船の荷が、市に出まわっていた、と。
　ラティマの実家が急いで調べた結果、船は難破したのではなく、何者かによって奪われていたことがわかったのだが、そのころすでに、ラティマの容態は悪化の一途を辿っていた。
死の直前、その手元には、無残にも原形を失った『ラティマの薔薇』三十個のうちの、ただ一個だけが、戻ってきた。何とか姉を元気づけようと、ラティマの妹が行方を探して買い戻したのだが、時すでに遅かった。
　もう一度、『ラティマの薔薇』が見たかった――
　夫との思い出の、美しい薔薇の首飾りを取り戻すことを願いながら、ラティマは息を引き取ったのである。
　ライラは幼いころ、祖母にラティマの話を聞かされて育った。
　亡き姉のために、いつかきっと『ラティマの薔薇』のすべてを取り戻したいという祖母の願いは、そのままライラの願いになった。
　いつか、すべてを取り戻してみせる。
　取り戻せたら、きっと――
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         <category>002二話</category>
         <pubDate>Fri, 16 Nov 2007 00:00:27 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>二話（２）</title>
         <description>びくりと体が震えて、目が覚めた。
　気がつくと、辺りは嘘のように明るい。――見慣れた光景。自分の部屋だ。
　夢……？
　ライラは起き上がり、大きく息を吐いた。
　目覚める直前まで、何か夢を見ていたようで、体が変に重苦しかった。おぼろげな記憶で、何かに追われているような夢だったような気がする。
「……あー……」
　よほど寝過ごしていなければ、今日は王宮の宝物庫に忍び込んで、三日目の朝のはずだ。
　泥棒の真似事をした夜の翌朝、ライラはすぐに都を出て、自分の家のある海辺の街シャーティに、馬車で半日かけて戻ってきた。つまり、例の宝物庫の番人がくれた一日の猶予のうちには、逃げることに成功したわけだが。
　……見つかるわけないわ。ないないない。絶対、ないんだから！
　悪夢を見るのは、弱気のせいだ。ライラは寝台から飛び降りて、思いきり背筋を伸ばす。
「ん。……よし。今日も元気！」
　天気も良さそうだ。きっと今日は何かいいことがあるに違いないと、根拠のない予感で悪夢の記憶を頭の隅に押しやって、いつものように鏡台の引き出しを開けた。
　櫛や髪飾りが並べられている引き出しの底をずらすと、その下に古めかしい箱が隠されている。
　ライラはそっと、その箱の蓋を開けた。
　箱の中身は、首飾りだ。ごく小さな粒から親指の爪ほどのものまで、様々な大きさのルビーで作られている。
　だがその首飾りは、おそらく誰が見ても不完全なものだとわかるくらいに、ところどころが欠けていた。――足りないのだ、ルビーが。特に首飾りの最も目を引く部分、真ん中の飾りがない。
　ライラは指先で、そっと赤い輝きに触れてみる。深い色合いは、明るい部屋で見ると、より美しい。
　首飾りを納めた箱の蓋の裏には、文字が刻まれていた。
　アリーから最愛の我が妻ラティマへ、永遠の薔薇を捧げる――
　……やっと二十六個目が手に入ったのよ、ラティマ。
　あと四つ。ここまでくるのに、四十年かかっている。でも、きっともうすぐだ。もうすぐ、もとの形を取り戻す。
　すべてを取り戻せたら、きっと……。
「……」
　箱の蓋を閉じて、二重底の引き出しをもとどおりに閉めた。
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         <category>002二話</category>
         <pubDate>Mon, 19 Nov 2007 00:00:04 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>二話（３）</title>
         <description>
　あと少しだと喜んでいられる状況でもない。まさか献上品にまで混じっていたとなると、残りの四個も、どうなっているか知れたものではない。
ライラがため息をついていると、侍女が洗面の水を持って入ってきた。
「おはようございます、ライラ様、起きてくださいませ……あら、失礼しました。起きておいででしたか」
「おはよう、マルジャーナ。今日はいつもの仕事以外に、何か予定があったわよね」
「ムーサーさんが商談にお見えのはずでしたが、船の到着が遅れているとかで、明後日にしていただきたいと……」
「あら、じゃあ午後が空いちゃったわね」
　顔を洗い、着替えて鏡の前に座ると、マルジャーナがいつものように、ライラの褐色の髪を櫛で梳いていく。
「せっかくですから、ゆっくりしていらしてはいかがですか？　都から戻られて、ほとんどお休みになられていませんでしょう」
「んー……でも、何かしてるほうが、気が紛れるし……」
「え？」
「あ、ううん。何でもないっ」
　ライラは慌てて首を振った。
　幼いころから自分に仕える、六つ年上のこの侍女は、ライラにとって気心の知れた、姉のような存在である。だが、ライラが宝物庫に忍び込み、ルビーを取り戻してきたこと、そこで人に見つかってしまったことは――ましてや一瞬とはいえ、顔を見られたことなどは、さすがに話せない。
　……話したら、怒られる。絶対、怒られるわ。
　マルジャーナには、ただ泊りがけで都の知人を訪ねるとしか、言っていないのだ。
「ああ、頭を動かさないでくださいませ。……今日の朝食は、お嬢様お独りですので」
「お父様とお母様は？　一緒じゃないの？」
「今朝はずいぶん早くから、何か急な用事とかでお出かけです」
「二人で？　珍しい……」
　商談なら、その品物を担当する使用人の誰か、あるいは自分を連れていくはずだ。
　ライラの父ハウマーンは、サーヒル王国最大の港町シャーティで一、二を争う貿易商である。一人娘のライラも、いずれ家業を継ぐため、以前から商いの手伝いをしていた。
　薔薇の刺繍のある濃い赤の上着に合うように、薄い珊瑚色のヴェールをつけながら、ライラはふと、鏡の中のマルジャーナを見た。
「ねぇ。……今月、まだ、届いてないわよね？」
「はい？」
「手紙」
「……ハーシム様からでございますか？　そうですね、今月は、まだ……」
「先月は……届いてたわよね」
「ええ、だいぶ遅れてでしたけれど……」
「……」
　目を伏せたライラの肩に、マルジャーナがそっと手を乗せた。
「きっとお忙しくていらっしゃるんでしょう。先月、御父上様がジャバルの長官に就任されて、ハーシム様がお家の御用をされることが増えたのかもしれませんよ」
「……そうね」
軽くため息をついて、ライラは立ち上がった。
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         <category>002二話</category>
         <pubDate>Fri, 23 Nov 2007 00:00:13 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>二話（４）</title>
         <description>
「今日の午後は宝石と絹織物の在庫確認をするわ。後で目録の用意をしておいて」
「かしこまりました」
　簡単に朝食を済ませ、ライラは使用人たちに挨拶してまわりながら、屋敷の表にある店のほうへと出た。店頭はすでに、陸揚げしたばかりの異国からの品々を買い取ってもらおうという商人らで、ごったがえしている。
「あ、ライラ様！　おはようございます。マスウディーが目録を持ってまいりました」
「ありがと。サミクに渡しておいてちょうだい」
「お嬢様、いまザイナブの船が着いたそうですが」
「ザイナブ？　このあいだの香料は、あまり良い品じゃなかったわよ。いくら安くすると言っても――」
　店先から低いどよめきが聞こえ、ライラは何気なく振り向いた。
「……」
　白い馬がいた。
　見事だ。ひと目で駿馬とわかる。しかも轡や鐙には金やターコイズの飾りが付いており、馬が首を動かすたび、きらきら光っている。
　馬にはマントを羽織り、なおかつターバンで、頭だけでなく顔まですっぽりと覆った男が乗っていた。――どう見ても、顔を隠しているようにしか見えない。
　人々の注目を浴びながら、男は慣れた動作で優雅に馬から降り、店構えをぐるりと見まわした。
　……お客？
　それとも、新規の商人だろうか。
「ライラ様――」
　後ろにいたマルジャーナが心配そうに呼んだが、ライラは構わず、そちらに歩き出す。
　近くまで来てみると、男は、ちょっと見上げるほど背が高かった。
「こんにちは。ハウマーンの店に、何か御用でございますか？」
　男が、ライラのほうを見た。
　ターバンからは、目だけが覗いている。――サファイアのような、青い瞳。
　と、男が、その目をすっと細めた。
　……笑った？
　ライラに途惑いの表情が浮かんだのを見てとったか、男が、ライラにだけ見えるように、ターバンをほんの少しだけずらした。
「……」
　顔が、見えた。
　が。
　……まさか。
「い……」
　思いきり息を吸って、いまにも叫びそうに目を見開き――
「ライラ様!?」
　そのまま踵を返し、ライラは猛然と店の中に駆け込んでいた。
　……男の顔は、『宝物庫の番人』と、そっくりだった。</description>
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         <category>002二話</category>
         <pubDate>Mon, 26 Nov 2007 00:02:15 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>二話（５）</title>
         <description>　夢よ。夢に決まってるわ。これはあの悪い夢の続きで、あたしは、まだ起きてないのよ。ほら、こうして頬をつねったら――
「……い、痛い……」
　うっかり両頬をつねってしまい、あまりの痛さに、ライラは顔を押さえてうずくまった。自分の頬なのだから、手加減すべきだった。
「ライラ様――どうなさったんですかっ？」
　追ってきたマルジャーナは、ライラが涙を浮かべているのを見て、ぎょっとする。
「つねったら痛くて……」
「は？」
「じゃなくて……どうしよ、あたし、牢獄行きだわ……」
「はぁ!?」
　マルジャーナが何事かと聞き返す前に、出納係のサミクが慌しく廊下を走ってきた。
「お嬢様、お嬢様……あっ、こちらでしたか！　すぐ客間のほうへお戻りください」
「サミクさん、いまそれどころじゃ……」
「旦那様と奥様がお呼びです。あの、何でも、ライラ様の婿になりたいと仰る方が……」
「は？」
　ライラとマルジャーナが、同時に振り返った。
「婿？　え？　何っ？　ハーシムさんがいらしたの!?」
「いえ、ハーシム様ではなくてですね」
「ハーシム様でなくて、誰がいまさらそんなこと言ってるんですか！」
「あの、ですから、私も詳しくは……いたたたた」
　伝達に来ただけの気の毒な出納係サミクは、女二人に掴みかかられて、目を回している。
「って、ちょっと、わけのわからない話をしてる場合じゃないのよ、あたし！　早く逃げなきゃ――」
「あっ、ライラ様!?」
　逃げるといってもどこへ逃げればいいものかわからないまま、ライラはあたふたと廊下を駆け出した。すれ違う使用人らが、驚いて振り返る。
　えーと、どこに逃げれば……って、まずは部屋に戻って、荷造りして――
「！」
　廊下の角を曲がったところで、誰かとぶつかってしまった。
「ごめん！　急いで……」
「相変わらず元気がいいな」
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         <category>002二話</category>
         <pubDate>Fri, 30 Nov 2007 00:00:12 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>二話（６）</title>
         <description>「……」
　ひくりと、頬が引きつった。
　おそるおそる見上げると――もうターバンを外したその顔は、やはり例の番人と同じ顔。
「なっ……なんで……」
　いつのまに、家の中まで入ってきたのだろう？
「なんで？」
　男はくつくつと喉の奥で笑い、身を屈めてライラの目を覗き込んだ。この声、この笑い方、間違いない。
「――へぇ、なかなか美しい瞳をしてたんだな。ペリドットの色だ」
「ペリドット……」
　黄色がかった淡い緑の、確かにそういう宝石があるが、この状況とペリドットに、何か関係があっただろうか？
「なんだ？　俺と再会できて、感激のあまり言葉にならないか？」
「……か、感激？」
　ものすごく場違いな言葉のような気がするのに、混乱した頭では、うまく言い返せない。とりあえず、誰か助けてほしい。
　半泣きで後ずさりしていると、マルジャーナとサミクが追いついてきた。
「ライラ様――」
「あっ、マルジャーナ、助けて！」
「何です？」
「あれ、あなたは……」
　マルジャーナは素早くライラを後ろにかばい、きっと男を睨む。
　そこにライラの父ハウマーンが、奥から歩いてきた。
「王子、そこにおいででしたか」
「何が王子……え？」
　ライラはマルジャーナの背後から、そっと顔を出し、父と男を見比べる。
「王子？」
　男が、にやりと笑う。
「いかにも、俺はサーヒル国第十八王子、シャルディーンだ。――三日ぶりだな、ライラ」
「……」
　腰が抜けて、ライラはしばらく、そこから立てなかった。
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         <category>002二話</category>
         <pubDate>Mon, 03 Dec 2007 00:00:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>二話（７）</title>
         <description>「……つまり？　都に遊びに行ったのではなく？　ルビーを見つけるために？　宮殿の宝物庫に忍び込んで？　そこでシャルディーン王子にお会いしたと？　そう仰るわけですね？」
「でも、でもねっ、マルジャーナ！　あたし、王子だなんて全っ然知らなかったのよ！　だってこのひと、自分のこと宝物庫の番人だなんて――」
「問題はそこじゃありません!!」
　あまりの剣幕にライラは悲鳴を上げて頭を抱えたが、マルジャーナは構うことなく目を吊り上げる。
「御自分がどんな危険なことをされたのか、わかってらっしゃるんですか!?　普通ならその場で捕まって縛り首ですよ!?」
「で……でも、ちゃんと帰ってきたし……」
「運が良かっただけです!!」
　そのとおり。
　ライラは客間の隅で、これ以上はできないくらい身を縮める。
「まったく、無茶なことを……」
「ほほほ……ライラってば、相変わらずお転婆さんねぇ」
　ハウマーンは娘に説教しようとしたものの、侍女に先を越されてしまい、結局ため息をついてぼやくだけになり、母のラハリーヤは娘の無謀さをわかっているのかいないのか、おっとりと笑っていた。
「笑いごとではありません、奥様。ライラ様はあのルビーのこととなると、見境がないんですから」
「ほんとにねぇ。ライラ、みんなに心配かけてはいけないわ。後でよくお謝りなさい」
「はーい……」
　うなだれるライラを、大きなクッションにゆったりと腰掛けた、宝物庫の番人――否、王子だというシャルディーンが、面白そうに眺めている。
　もう一度ため息をついて、ハウマーンがシャルディーンのほうに向き直った。
「御覧のとおり、まだ子供でございます。王子が我が娘の婿にと仰ってくださいましたことは、光栄とは存じますが……」
……婿？
「ちょっと」
　小さくなっていたライラが、むくりと顔を上げる。そういえば、さっきサミクも、婿になりたいとかどうとか言っていたが――
「何か、おかしな話してない？」
「旦那様、いまのお話は、つまり……」
怒っていたマルジャーナも、不安そうに主人夫婦と客人を見た。
　ハウマーンはひとつ咳払いをして、姿勢を正して座り直す。
「ライラ。こちらのシャルディーン王子はな、その、おまえが三日前に無茶をした
ときに、おまえを見初められたそうで――つまり、おまえを妻にしたいと……」
「……」
　聞き間違いじゃなかった……。
　青ざめたライラに、マルジャーナがすかさず前に出た。
「お待ちください。いくら王子のお申し出とはいえ、ライラ様には、ハーシム様が……ずっと以前から婚約されているお相手がおいでです。そのことは――」
「ああ、相手はこのまえジャバルの長官に出世した、ファズルの次男だと聞いたが」
「お聞きでございましたら……」
「聞いたが、まだ、結婚しているわけではない。――そうだな？」
　シャルディーンはライラのほうを向き、唇の片端を上げて笑った。
「だっ……だって、ハーシムさんがうちに来るのは、あたしが十七になったらっていう約束で……」
「それもさっき父御から聞いた。が、どうだ？　そのファズルの次男坊より、おまえは俺を婿にしておくほうがいいと思うが」
「どうして」
「どうして？」
　あぐらをかいた膝の上に片肘をつき、頬杖をしてライラを眺めるシャルディーン
の様子は、いかにも楽しげだ。
「そうだな。……まず、どうやって俺がおまえの正体を知ったか、教えてやろうか」
「え……ええ」
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         <category>002二話</category>
         <pubDate>Fri, 07 Dec 2007 00:00:35 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>『アラビアンローズ～ライラの受難～』ＷＥＢ連載をご愛読いただきありがとうございました。</title>
         <description><![CDATA[　『アラビアンローズ ～ライラの受難～』ＷＥＢ連載をご愛読いただきありがとうございます。
　先週ＵＰしました「二話（７）」をもって、連載を終了させていただきます。
　このＷＥＢ連載の続きは現在発売中の<a href="http://www.gagaga-lululu.jp/lululu/sinkan/index.html#sin2">文庫版</a>でお読みになれますので、そちらもあわせてお楽しみいただければ幸いです。（ルルル文庫編集部　２００７年12月10日）



　なお、今までの連載分は、以下のリンクよりお読みいただけます。
（<a href="http://lu3.gagaga-lululu.jp/arabianrose/001/">一話</a>／<a href="http://lu3.gagaga-lululu.jp/arabianrose/002/">二話</a>）]]></description>
         <link>http://lu3.gagaga-lululu.jp/arabianrose/2007/12/post_13.html</link>
         <guid>http://lu3.gagaga-lululu.jp/arabianrose/2007/12/post_13.html</guid>
         <category>お知らせ</category>
         <pubDate>Mon, 10 Dec 2007 18:03:45 +0900</pubDate>
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