八話(3)
きな臭さを感じ取ったアイリスは、思い切ってキラキラ大臣に直接話しかけてみた。
「あのー大臣様、つかぬことをお伺いしますが……ザオネイル様とはどんなご縁で?」
「おお! よくぞ聞いてくださいました! 先日このザオネイル様は、我が国を農業経営の危機から救ってくださったのです!」
「……農業?」
ピクピクッとアイリスの耳が動き、その横でザオネイルの顔が心なしか青褪める。
「ええ。自国の恥をさらすようでお恥ずかしいのですが、実は先日、ウチの国でとんだ昆虫騒動が起きましてねー」
「……昆虫騒動?」
「熱心な昆虫マニアの団体が、絶滅したはずの田喰い虫をどこからかまた持ち込みおったのですよ! 各地の愛好家同士で繁殖させた挙句自然に帰すなどと余計なことをしてくれたお陰で我が国の稲は大損害を受けるところでしたが、そこで颯爽と現れたのがこのザオネイル様! 我が国の国宝級のお宝であります〝超号泣スリッパ〟と引き換えにその田喰い虫共を! あーら不思議、どこかへ綺麗さっぱり移してくだすったじゃあありませんかっ」
その後も大臣は田喰い虫亡き後の稲の成長の様子やら新たに入荷した新スリッパについての話を延々と続けていたが、アイリスもザオネイルももはや聞いてはいなかった。
ランズーカよりも国土の広いナルパ王国の農業を危機に陥らせるくらいだ。それをそっくりそのまま持って来られたらそりゃひとたまりもないだろう。
「……ふうううぅぅーん……」
スイッと菫色の目を細め、口元だけで笑顔を形作ったアイリスがザオネイルの方を向き、どこか陰のある笑みを浮かべる。
「大活躍なのねぇ、ザオネイルさん?」
「ま…………………………まあな」
ふいと視線を逸らし、口笛でも吹きたそうな様子でザオネイル。その目は大会があったなら優勝確実であろう泳ぎっぷりを見せている。
「同じ願いなのに、ナルパ王国の方は叶えたわけね」
「いやその……そろそろ繭になる頃合いだったし、いくらなんでも二度移動させるのはカミとしてちょっとな……そういうことするとペーペー鳥がうるさいし……」
だったら面倒がらずにあらかじめ分散させておくとか、もっと後先考えて行動してほしいと思いつつも腕を組み、少し考えてアイリスはなるたけ穏やかな口調で言った。
「ねえザオネイル、田喰い虫は成虫になると豊穣を司るけど、幼虫の時は田を喰いつくす……ということは、結局今年の田んぼはもうだめってことよね?」
「う、うむ。そうなるな」
「でも、ナルパ王国はどうやらそれなりに収穫があるみたいね?」
「う、うむ。そうだな」
「だとしたらもしかしたら、頼めば援助米をくれるかもしれないわね?」
田喰い虫もくれたみたいだし……と微笑むアイリスに見守られる中、ザオネイルはカミにしては珍しく冷や汗をダラダラとかいたまま、ナルパ王国の農大臣にランズーカへ援助米を送る旨を約束させたのだった。
かくしてランズーカ王の「国民に米を!」という願いは、カミすら怯えさせる王女の謎の圧力により、無事叶えられることとなったのである。
――めでたし、めでたし?