第二章 海辺の村(上)(1)

 たった今――。  リベルト・ミラーノはある重要な報告を受けたところだった。  磨かれた机の上にゆっくりと肘をつき、口元で手を組む。  暗い古典的な色調の室内は、ほんの些細な音すら響くほど静まり返っていた。  ミラーノは、白髪まじりの黒髪を後ろに撫でつけた割と平凡な顔立ちの男だ。しかし、その黒い瞳は異様に冷たい蛇のような目をしている。  今やティエランカ王国のすべてを掌握しつつある男。  強く栄光...

くわしくはこちら… »

第二章 海辺の村(上)(2)

「武装親衛隊が、燃やされた手帳の痕跡を発見した。おそらく、我々の手に渡るのを恐れて国王が破棄したのだろう」  セレッソが眼鏡の奥で小さな瞳を光らせた。 「燃やされた? ならば、砂漠を探査した地質学者をおさえればいいだろう。今すぐデジエルト砂漠に武装親衛隊を……」  ミラーノは苦々しい顔でそれを遮った。 「無駄だ。地質学者は熱病を患い、国王がデジエルト滞在中に死んだ。ご丁寧なことに、燃やされた手帳以...

くわしくはこちら… »

第二章 海辺の村(上)(3)

 「ヘリファルテ! 来て!」  そう叫びながら診療所に駆け込んできたポジートに、ヘリファルテは寝不足で痛むこめかみを揉んだ。  ……今は何時だ?  壁に掛けられた時計を見ると、六時を少し過ぎたところだった。 「どうしたんだ?」  ヘリファルテは小さな洗面台に歩み寄ると、両手で顔や首に水を浴びせかけた。 「大変なんだ! 怪我してる!」  タオルで顔を拭いながら、ヘリファルテはポジートを素早く見おろし...

くわしくはこちら… »

第二章 海辺の村(上)(4)

 西大陸戦争は、西大陸のほとんどの国が参戦した大きな戦争だった。  きっかけとなったのは、ティエランカ王国で起きた銃撃事件――。  一般参賀のために王宮のバルコニーに姿を現した国王一家が銃撃され、王妃が凶弾に倒れるという悲劇が起きた。  このとき、クエルヴァは十一歳――父と弟とともにかろうじて銃弾を逃れたが、母の死を目の当たりにし、彼女の受けた心の傷は決して浅くはない。  ――この国王一家を狙った...

くわしくはこちら… »

第二章 海辺の村(上)(5)

 クエルヴァが再び目覚めたとき、周囲は薄暗い闇に包まれていた。  ――清潔な消毒液の匂いと、いつもと違う枕の感触――遠くから静かな波の音が聞こえる。  小さく身じろぎすると、右肩に鋭い痛みが走った。とっさに自分に何が起こったのか思い出し、クエルヴァは慌てて起きようとした。しかし、全身が石のように固まっていて動かない。ひどく喉が渇き、頭がずきずきと痛んだ。  ……ここは?  顔をめぐらせると、小さな...

くわしくはこちら… »

第二章 海辺の村(上)(6)

「来たな」  そう呟くと、ヘリファルテが声を大きくした。 「ポジート、こっちだ。来てみろ、お前の人魚が目を覚ましたぞ」  とたんにパタパタと廊下を駆けてくる小さな足音が聞こえ、病室の扉から一人の少年が顔をのぞかせた。  そばかすの浮いた明るい顔の少年だった。目尻の垂れた愛嬌のある顔立ちは、浜辺でクエルヴァをのぞきこんでいた顔と同じだった。 「君を見つけたのは彼だ、何度か見舞いにも来ている。礼を言っ...

くわしくはこちら… »