第二章 海辺の村(下)(1)

 マナーニャ村に一軒しかない酒場に一人の男がやって来たのは、それから数日後のことだった。  地味な服を身につけ、これといった特徴のない男は、疲れた足取りでカウンターに近づくと安い酒とつまみを注文した。  狭い酒場に集まっていた男たちが、胡散臭そうに男を一瞥する。  男は煙草の煙が充満する酒場を見回した。  ……しけた場所だ。こんな村、仕事でなきゃ絶対に来ない。  しばらく無言で酒をちびちびと飲んで...

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第二章 海辺の村(下)(2)

「……私は賞金首なの?」  ポツリと呟くと、ヘリファルテが溜息をついた。  「ああ。しかも、これだけ多額の賞金だ。君がもし生きてどこかに隠れていれば、必ず情報が集まる。武装親衛隊は、君のことを何としても見つけ出そうとしているようだ」  ルチアは目を瞬かせ、数拍してから頭を抱え込んだ。  どっと現実が押し寄せてくる。  ミラーノがなぜ、こんな強引な手段に出たのか――。ルチアには、すぐに察しがついた。...

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第二章 海辺の村(下)(3)

 ……まったくつまらん無駄足だったな。ここでも収穫なし、だ。  男は一晩泊まった居酒屋から外に出ると、朝の光に目を細めた。  こんな小さな村なら不審な娘がいれば必ず目につく。  酒場の男たちが誰も知らなかったということは、目的の娘はここにはいないということだ。  そのとき、通り過ぎた家の戸口が開き、中から顔をのぞかせた女が、軒下で遊んでいた子供に甘い焼き菓子の香りがするバスケットを差し出した。 「...

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第二章 海辺の村(下)(4)

 反射的に広場の方向へ顔を向けたルチアの肩を、ヘリファルテが両手で押しとどめた。 「君は逃げるんだ」  ルチアは首を横に振った。 「できない、村の人を残して逃げるなんて……」  立ちすくんだルチアの背中を、今度はブレトンがそっと押した。 「先生の言うとおりだ。村のことは気にしなくていい。あんたは逃げろ」 「なぜ? あなたも危険な目に合うかもしれないのに」  振り向いたルチアに、ブレトンは低い静かな...

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第二章 海辺の村(下)(5)

薄暗い道をルチアは走った。もう後戻りはできない。  はあ、はあ、と吐き出される乱れた呼吸が、まるで他人のもののように聞こえた。  広場に倒れていたポジートの姿が脳裏に浮かび、目の前でくるくると旋回する。  何度も転びかけながら石畳の広い道に飛び出したとき――、  突然、車のヘッドライトが視界一杯に飛び込んできた。  ――轢かれる!  横から走ってきた黒い軍用車に、ルチアは目をつぶって身体をすく...

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