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    <title>小学館：ルルル文庫／WEB小説_ルチア クラシカルロマン</title>
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    <updated>2009-01-13T03:39:31Z</updated>
    <subtitle>ルルル文庫WEB小説</subtitle>
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    <title>第二章　海辺の村（中）（１）</title>
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    <published>2008-12-02T15:00:20Z</published>
    <updated>2008-12-02T15:15:12Z</updated>
    
    <summary>　――まだほの暗い夜明け。 　クエルヴァは足音をひそめながら病室を抜け出した。 　しんとする廊下を進み、居間に滑り込む。 　昨夜ここで食事をとったときに、新聞があることに気がついたのだ。 　――まずは、この三日間で何が起きたのか把握しなくてはいけない。 　クエルヴァは棚の脇に置かれた籠から新聞を取り上げると、日付を確認してから、おそるおそる紙面に目を走らせた。衝撃的な見出しが次々と目に飛び込んでく...</summary>
    <author>
        <name>ルルル文庫創刊準備スタッフ</name>
        
    </author>
            <category term="003第二章　海辺の村（中）" />
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://lu3.gagaga-lululu.jp/lucia/">
        　――まだほの暗い夜明け。
　クエルヴァは足音をひそめながら病室を抜け出した。
　しんとする廊下を進み、居間に滑り込む。
　昨夜ここで食事をとったときに、新聞があることに気がついたのだ。
　――まずは、この三日間で何が起きたのか把握しなくてはいけない。
　クエルヴァは棚の脇に置かれた籠から新聞を取り上げると、日付を確認してから、おそるおそる紙面に目を走らせた。衝撃的な見出しが次々と目に飛び込んでくる。
『パジャロス党のリベルト・ミラーノ、武力による体制変革を起こす！』
『首都官公庁における小規模な銃撃戦のあと、民主議会は即時停止。ミラーノによる臨時政権の発足――陸海軍はこれを支持』
『首都に戒厳令がだされ――武装親衛隊が治安維持にあたっている』
　クエルヴァは、全身から血の気が引いていくのを感じた。
　――首都エルニドが、ミラーノに制圧された――！？
　それだけでなく、ミラーノは自分の政権をたった三日で打ち立てることに成功したのだ。
　恐ろしい事実に、クエルヴァは戦慄を覚えた。
　――お父様と、フェリックスは？
　二人の安否は、目が覚めたときから気になっていた。焦りに手を震わせながら、新聞に目をこらす。
『国王陛下は、現在、混乱を避けるために王太子殿下とともに武装親衛隊の保護下に置かれている』
  ――保護下！？
　クエルヴァは目を瞠った。
　奇襲して身柄を拘束しておきながら、どういうこと――？
　懸命に文字を追ったが、それ以上二人については書かれていなかった――ただ、二人は武装親衛隊の保護下にあるとだけ書かれている。
　クエルヴァはそこに注目した。
　――父は国民からの人気が高い。もしかしたら、ミラーノは父と弟の処遇を決めかねているのかもしれない。
　クエルヴァは落ち着きなく額の汗をぬぐった。もっと、事態を分析する情報がほしかった。
　食い入るように新聞を読み進むと、この三日間で、多数の民主派の有力者が武装親衛隊に連行されたことがわかった。いずれも、ミラーノの行為に反発を示した人物だ。
　――エリアス・レイ！　彼は無事なのだろうか？
　半ば絶望的な気持ちで新聞の端から端まで目を通したが、エリアスに関する情報はどこにもなかった。けれど、ミラーノが宿敵であるエリアスを見逃すはずはない。
　クエルヴァは新聞をぎゅっと握った。
　――もしかして、エリアスは……。
　思わず頭に浮かんだ最悪な事態に、慌ててかぶりを振る。
　そのとき、クエルヴァの背後でふいに扉が開いた。
　びくりとして思わず取り落とした新聞の束が、ばさばさと床に広がる。
　振り向くと、居間の扉に手をかけたヘリファルテが驚いたようにこちらを見つめていた。慌てて新聞を拾い上げようとしたクエルヴァに歩み寄り、横から腕を伸ばす。
「いいよ、僕がやろう」
「あ……！」
　クエルヴァはとっさにヘリファルテを遮ろうとしたが、間に合わなかった。
　たったいま、彼が拾い上げた新聞――そこには、
『南大陸からの帰途、行方不明となった姫殿下の安否は依然不明……現在、武装親衛隊による捜索活動が続けられている』
　そう、書かれていたからだ。
　一面に載っているそのニュースを、ヘリファルテが読んでいないはずはない。
　クエルヴァは、わずかに後退った。
　――クーデターが起きた翌朝、浜辺に倒れていた娘――行方不明の王女と同じ年格好をし、肩には銃創を負っていた――。
　誰であろうとも気がつくはずだ。
　それなのに、なぜ――。
　なぜ、ヘリファルテは黙って自分を診療所に置いているのだろう。
        
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    <title>第二章　海辺の村（中）（２）</title>
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    <published>2008-12-04T15:00:42Z</published>
    <updated>2008-12-04T15:15:14Z</updated>
    
    <summary>　ヘリファルテは、クエルヴァの警戒するような眼差しをちらりと受け止めてから、手に持った新聞を棚の脇の籠に放り込んだ。 「心配しなくていい……」 　棒のように突っ立ったままのクエルヴァを、溜息まじりに振り返る。 「君に、事情があることはわかっている。だけど、僕は言ったはずだ。自分の患者は守る主義だと」 　その声は静かだったが、強い意志を感じさせた。 「君が誰であっても、それは変わらない」 　クエルヴ...</summary>
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        <name>ルルル文庫創刊準備スタッフ</name>
        
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            <category term="003第二章　海辺の村（中）" />
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://lu3.gagaga-lululu.jp/lucia/">
        　ヘリファルテは、クエルヴァの警戒するような眼差しをちらりと受け止めてから、手に持った新聞を棚の脇の籠に放り込んだ。
「心配しなくていい……」
　棒のように突っ立ったままのクエルヴァを、溜息まじりに振り返る。
「君に、事情があることはわかっている。だけど、僕は言ったはずだ。自分の患者は守る主義だと」
　その声は静かだったが、強い意志を感じさせた。
「君が誰であっても、それは変わらない」
　クエルヴァは激しく目を瞬かせた。
「でも、どうして……」
「それは、君が僕に『助けて』と言ったからだ。僕は医者だ。助けを求める人間を放ってはおけない。浜辺で倒れていた君は、確かに僕に、『助けて』と言った。だから僕は君が目覚めるのを待ったんだ。君がどうしたいのか知りたくて――」
　ヘリファルテが正面からクエルヴァを見つめた。
「君が誰であるか、無理して答える必要はない。だけど、僕は君のことが心配なんだ。君が、うわ言で呼んだフェリックスとは、弟君のことだろう？　君は眠っている間、何度もお父上と弟君のことを呼んでいた」
　クエルヴァは鋭い胸の痛みを感じて、目をぎゅっと閉じた。
　ヘリファルテは、クエルヴァが王女であることにとっくに気がついていた。気がついていながら、何も知らないふりをし、どこにも通報せずにいた。
　――ただ、一言――クエルヴァが『助けて』と言ったから。
　クエルヴァは掠れた声を喉から押し出した。
「……私は」 
　けれど、そのあとの言葉が続かなかった。
　王宮に帰りたい、と思った。――家族がいる、世界で一番安心できる場所に。
　けれど、帰れない。たった三日の間に、自分の世界は変わってしまったのだ。
　不安と心細さがひしひしと胸に迫った。いま、自分が一人なのだとはっきりと自覚した。　思わずこみ上げてきた涙をガウンの袖で拭う。
「すみません……」
　クエルヴァは震えながら嗚咽をこらえた。隠そうと思っても涙が溢れ出す。
　そんなクエルヴァに、ヘリファルテが気遣いを含んだ声をかけた。
「いいんだ。君はいま大変な立場にある」
　しばらく、クエルヴァが落ち着くのを待ってから、ヘリファルテが控えめに口を開いた。
「今の君に必要なのは、安全な場所で傷を治し、体力を回復することだ。もしよければ、しばらくここにいてくれてかまわない」
　その言葉に、クエルヴァは慌てて首を横に振った。
「……そんなことをしたら、あなたに迷惑がかかります」
　今のこの状況では、自分はやっかい者以外の何ものでもない――。
「バカな」
　ヘリファルテが、額に手を当てて小さく笑った。
「そんなことは気にしなくていい。僕にとって、君はただの患者だ。医者として入院を勧める、それならいいだろう？」　　
　クエルヴァはしばらく沈黙した。
　少なくとも、ヘリファルテは、クエルヴァを『患者』として守ろうとしてくれている。
「大丈夫、マナーニャの浜は小さい。武装親衛隊の捜索網からもはずれている」
　その言葉に、クエルヴァの瞳からぽろりと涙がこぼれた。
　ヘリファルテが静かに微笑んだ。
「まずは……そうだな、朝食でも食べるかい？」
　そう言うと、ヘリファルテはハンカチをクエルヴァに渡し、居間と続きになっているキッチンへと入って行った。フライパンを火にかけ、コーヒーをいれはじめる。
　少し迷ってから、クエルヴァもキッチンに入った。
「あの……手伝います」
　しかし、ヘリファルテは苦笑しながら首を横に振った。
「君は座っていればいい、こんなことをしてはいけないし、させるつもりもない」
　けれども、クエルヴァはかまわず卵を取り上げた。

        
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    <title>第二章　海辺の村（中）（３）</title>
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    <published>2008-12-07T15:00:52Z</published>
    <updated>2008-12-07T15:15:11Z</updated>
    
    <summary>「……料理ができるのかい？」 　ヘリファルテの驚きを含んだ声に、クエルヴァは一拍間をおいてから頷いた。手に取った卵を、おっかなびっくり割る。 　もともと、ティエランカ王室はどんなに豊かな時代でも質素倹約を美徳としてきた。　　　最低限の身の回りのことも自分でするように教育されてきたから、料理を手伝うことに何も抵抗はない。簡単な料理くらいは自分も作れるはず――。 　クエルヴァは黙々と手を動かした。しか...</summary>
    <author>
        <name>ルルル文庫創刊準備スタッフ</name>
        
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            <category term="003第二章　海辺の村（中）" />
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://lu3.gagaga-lululu.jp/lucia/">
        「……料理ができるのかい？」
　ヘリファルテの驚きを含んだ声に、クエルヴァは一拍間をおいてから頷いた。手に取った卵を、おっかなびっくり割る。
　もともと、ティエランカ王室はどんなに豊かな時代でも質素倹約を美徳としてきた。　　　最低限の身の回りのことも自分でするように教育されてきたから、料理を手伝うことに何も抵抗はない。簡単な料理くらいは自分も作れるはず――。
　クエルヴァは黙々と手を動かした。しかし――、
「……意外と、男らしい料理だね」
　どことなく青ざめた顔をしたヘリファルテの言葉に、クエルヴァは頬を染めてうつむいた。　フライパンの上でぐしゃぐしゃにかき回されて焦げた卵と、飛び散った塩とコショウを見つめる。オムレツを作るつもりだったのだけど、とてもそうは見えない。
「……大丈夫、きっと食べられますから」 
　たぶん――、とかろうじて自信のない保証をする。
　しばらく肩を並べて朝食を作っていると、ヘリファルテが静かな微笑みを見せた。
「君の髪はとても美しいね。子供の頃から色が変わっていない純粋な金髪だ」
　何を言い出すのかとクエルヴァが首をかしげると、ヘリファルテが自分の手元を見たまま続けた。
「この辺りは黒髪が多い。君のその髪は少し目立つ。もしよかったら、バスルームに黒い髪染めがあるから使ってみるといい」

　 
　クエルヴァは水に濡れた手を鏡についた。
　身体から落ちる雫が、小さな浴室のタイルの上に音もなく落ちていく。
　顔を上げると、黒髪に青緑色の瞳をした娘が、鏡の中からこちらを見つめていた。
　……これが、いまの私。
　水浴びをしたことで身体の不快感は消えたが、鏡に映る自分の姿はやはり不自然だった。
　腰まであった髪を背の中程で切り、黒く染めたせいで、青緑色の瞳が以前よりも濃くなったように見えた。頬もいくぶん痩せている。
　――朝食のあと、クエルヴァはヘリファルテの忠告に従い、髪の色を黒く変えることにした。南部の村に限らず、ティエランカ人には黒髪が多い。ヘリファルテの言うとおり、黒髪のほうが目立たない。
　……まるで犯罪者にでもなったみたい。
　クエルヴァは前髪から滴る水滴をゆっくりと払った。右肩に包帯を巻き直し、ヘリファルテが用意してくれたブラウスとスカートを身につける。
　『クエルヴァ』という王女の代りに、『ルチア』という、どこにでもいるティエランカ娘が現れた。
　クエルヴァは、黒い髪染めの瓶を洗面所の棚に戻した。
　そして、ふと、なぜヘリファルテがこんなものを都合良く持っているのか気になった。彼の髪は茶色なのに――。
　クエルヴァは、ヘリファルテの静かな眼差しを思い出した。どこか悲しい色をした瞳だと思った。
　……彼は何者だろう。
　いくら医者と言っても、普通の生活を送ってきた人ならば、クエルヴァに対して、もっと驚いたり、動揺したり、騒いだりするような気がするのだけれど――。
　疑問が心を揺らしたが、いま頼りにできるのはヘリファルテだけだ。とにかく、早く怪我を治して少しでも元気にならないと――。
　クエルヴァは、服の上から右肩の傷に触れた。
　これからさき、どうなるのだろう……。
　痛みをおさえながら目を閉じると、胸の奥底から不安がこみ上げてきた。
　――けれども、
　父と弟の無事を確認するまでは、エリアス・レイに会うまでは――自分は黒いオイルの情報を守り、ミラーノに捕まるわけにはいかないのだ。
　だから――、
　クエルヴァは目を開けて、鏡の中の自分をじっと見つめた。
　いまから私は『ルチア』になる。何としても生き延びることが先決だ。

        
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    <title>第二章　海辺の村（中）（４）</title>
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    <published>2008-12-09T15:00:32Z</published>
    <updated>2008-12-09T15:15:12Z</updated>
    
    <summary>　クエルヴァがルチアになってから、一週間が経った。 　その間、ルチアは毎日新聞を読んだが、父と弟が置かれている状況や、エリアスに関する情報を得ることはできなかった。 　ただ、ミラーノの臨時政権が、日に日に本格的な独裁政権へと体制を整えつつあることは事実だ。その勢いが、新聞を通して否応なしに伝わってくる。 　――かつて、ルチアはミラーノと一度だけ顔を合わせたことがあった。 　ミラーノは、一見すると中...</summary>
    <author>
        <name>ルルル文庫創刊準備スタッフ</name>
        
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            <category term="003第二章　海辺の村（中）" />
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://lu3.gagaga-lululu.jp/lucia/">
        　クエルヴァがルチアになってから、一週間が経った。
　その間、ルチアは毎日新聞を読んだが、父と弟が置かれている状況や、エリアスに関する情報を得ることはできなかった。
　ただ、ミラーノの臨時政権が、日に日に本格的な独裁政権へと体制を整えつつあることは事実だ。その勢いが、新聞を通して否応なしに伝わってくる。
　――かつて、ルチアはミラーノと一度だけ顔を合わせたことがあった。
　ミラーノは、一見すると中肉中背の平凡な男だ。しかし、笑顔の中で、瞬きを忘れたような無感情な目が怖かった。まるで茂みの中で蛇と出会ったときのように足がすくんだのを覚えている。好戦的な野心家、政治手腕は狡猾で、武力に傾倒する過激な発言が目立った。
　そんな人物が、ティエランカ王国を支配しようとしている――。
「いったい、どうすればいいのだろう……」
　ルチアは重い溜息をつき、手に持ったピンセットや鉗子をカラカラと消毒液の中で回した。
　少しずつ動けるようになってきたいま、ルチアは、ヘリファルテの診療所の手伝いをしていた。ベッドに横になっているより、体を動かしているほうが気が休まると思ったのだ。
　けれど、やはり暗澹たる気持ちに胸は押しつぶされそうだ。
　そんなルチアの頬を、窓から吹き込む爽やかな潮風が励ますように撫でた。
　窓の外からは穏やかな潮騒と、カモメが鳴く声が聞こえる。
　――素朴な白木で作られた海辺の診療所。
　ヘリファルテの人柄を表すように、飾り気がなく静かですっきりしている。
　簡素で必要最小限の物しか置かれていないが、棚や机の上には、美しい貝殻や不思議な形をした流木――ポジートが拾ってきたものらしい――が飾られていた。そして、薬も医療器具は驚くほど整っている。ヘリファルテは診療所の合間に薬学の研究をしているから、きっと、そのために必要なのだろう。
　――ここにいると、クーデターが起きたことなど夢のように思える。
　けれど、ルチアがここにいるということが、それを証明している。
「困ったな……」
　考えが巡るばかりで、まるで動きが取れない――。　
　ルチアはそんな自分が歯がゆかった。父と弟が大変な状況にあるというのに、悲しいくらい自分は非力だ。現実に押しつぶされて何もできずにいる。
「――ルチア？」
　ふいに背後から腕をとられて、ルチアは手に持った医療器具をガーゼの上にガシャリと落とした。振り返ると、ヘリファルテが訝しげにこちらを見おろしていた。
「すまない、驚かすつもりはなかった。ただ、何度呼んでも気がつかないから……」
「ごめんなさい、少し考え事をしていたから」
「……大丈夫かい？」
「ええ」
　ルチアは神経質に髪をまとめなおすと、消毒液の瓶を棚に戻した。ヘリファルテが来たことに、まったく気がつかなかった。　　
　ヘリファルテは、しばらくルチアを見つめてから口を開いた。
「少し、外に出てみるかい？」　
「え？」
　ルチアは、ヘリファルテの言葉に目を瞬かせた。
　たしかに、少し外の空気を吸いたい。この一週間、ずっと診療所に籠もりきりだった。
「でも、外に出ても大丈夫かしら？　村の人に見つかってしまう」
「心配しなくていい。君は僕の親戚ということになっている。ここは小さな村だ。君のことをいつまでも隠しておくことは無理だよ。それよりも、表に出た方がいい。大丈夫、誰も君のことを疑ったり、怖がらせたりしないよ」
　本当に？　とルチアが聞き返す前に、ヘリファルテは診察室の窓を指差した。
「行っておいで。護衛役の騎士もいるようだから」
　ルチアが振り返ると、窓の外からポジートが満面の笑みで手を振っていた。

        
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    <title>第二章　海辺の村（中）（５）</title>
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    <published>2008-12-11T15:00:24Z</published>
    <updated>2008-12-11T15:15:11Z</updated>
    
    <summary>　マナーニャは貧しい寂れた海辺の村だ。 　男も女もわずかな収入のために黙々と身体を動かして働いている。 　ヘリファルテによると、最近では現金を稼ぐために、貿易港のある隣町のパルティールに出稼ぎに行く村人もいるそうだ。そうしなければ、毎年上がっていく物価に追いつけないという。戦後の不況の波は、容赦なくこの小さな村にも押し寄せている。　　   それでも、白壁が続く村は、夏の太陽を浴びて輝いていた。 　...</summary>
    <author>
        <name>ルルル文庫創刊準備スタッフ</name>
        
    </author>
            <category term="003第二章　海辺の村（中）" />
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://lu3.gagaga-lululu.jp/lucia/">
        　マナーニャは貧しい寂れた海辺の村だ。
　男も女もわずかな収入のために黙々と身体を動かして働いている。
　ヘリファルテによると、最近では現金を稼ぐために、貿易港のある隣町のパルティールに出稼ぎに行く村人もいるそうだ。そうしなければ、毎年上がっていく物価に追いつけないという。戦後の不況の波は、容赦なくこの小さな村にも押し寄せている。　　
  それでも、白壁が続く村は、夏の太陽を浴びて輝いていた。
　細い坂道と水路が入り組み、いたる所に鮮やかな花が息苦しいほど咲き乱れている。
　西大陸と南大陸の文化の入り混じったティエランカ南部の独特の光景――。
　世間から隔絶されたような小さな村は、王国を騒がせている政変とはまるで無縁の、素朴なのどかさに包まれている。
　ルチアは、ポジートのあとをついて歩きながら、まるで小さな異国に迷い込んだような気分になった。ぐっと身体を伸ばして潮風と乾いた土の香りを吸い込むと、不思議と心が軽くなっていく。
　――少し現実の問題から離れて、気分を変えてみよう。
　ルチアは思い切って気持ちを切りかえると、ポジートの手をとって歩きはじめた。
　毎日のようにヘリファルテの診療所にやって来るポジートの存在は、ルチアの心をかなり救ってくれている。ちょこまかと動き回り、明るいお喋りを絶やさない。
　ポジートは、ヘリファルテからあらかじめ言い含められていたのか、浜辺や村で誰かとすれ違うたびに、ルチアのことを『診療所に勉強に来ているヘリファルテの親戚』だと紹介した。村人たちは、それに対して余計な質問はせず、ちらりとルチアを見ると、軽く帽子を取って挨拶をするだけだった。マナーニャ村の人々は一様に日焼けしており、皆、寡黙だった。
　ルチアは、ポジートに誘われるまま村を歩き、最後に彼の家に案内された。
　村の家は、どれも似たような白壁で造られている。隣家同士がピッタリとくっついていて、はじめて来た人間は迷子になってしまいそうだ。
「母ちゃん、ルチアが来たよ！」
　ポジートが声を張り上げると、明るく気丈そうな中年の女が奥から出てきた。
「あら、いらっしゃい。先生のとこに来てるお嬢さんなんだって？」
　とっさに返事ができなかったルチアに代り、ポジートが頷く。
「うん、そう」
「えらいねえ、将来は女医さんでも目指しているの？」
　ルチアは曖昧に頷いた。どうやら、診療所に勉強に来たヘリファルテの親戚、という触れ込みは、すでに村中に広まっているようだ。
「まあ、あがっておいきよ」
　促されるまま、ルチアは板張りの居間に入った。日陰になっていて、ヒンヤリと涼しい。中央に大きな丸いテーブルが置かれ、窓の下の花瓶には、色とりどりの花が挿してある。
　ポジートの母は、何もないんだけどね、と言いながらも揚げパンのようなお菓子を手早く作り、レモネードと一緒に振る舞ってくれた。
　久々に歩いてお腹が減っていたルチアは、さっそくお菓子をかじった。
「美味しい……！」
　思わず口を押さえて声を上げると、ポジートの母が嬉しそうに口元をほころばせた。
　しばらく、ルチアは二人とテーブルを囲んでおやつを食べていたが、ふと、正面の棚に古びたラジオが置かれていることに気がついた。
　――新聞よりもラジオのニュースのほうが豊富で新しい。首都で起きている出来事を、今よりも多く知ることができる。
「あの」
　ルチアは思い切って切り出した。
「ラジオをつけてもいいですか？」
　ポジートの母が申し訳なさそうに首を横に振った。
「それねぇ……壊れてるんだよ。うちの人が村の顔役だからって無理して買ったんだけど……今じゃ、うんともすんとも言わなくってね」
　ルチアは軽く首を傾けた。
「――少し見せていただけますか？」
「え？」
「ラジオの仕組みは知っていますから……工具があれば、直せるかもしれません」
　ルチアがラジオを見つめていると、ポジートの母が、窓から中庭に向かって声を張り上げた。
「あんた！　ちょっと工具箱をもってきてくれる？」
　すると、漁師仲間と網を繕っていたポジートの父が、中庭からごつい顔をのぞかせた。がっしりとした強面の男だが、事情を説明すると、びっくりするほどポジートそっくりに目尻をさげて笑い、すぐに大きな工具箱を持ってきてくれた。
　おそらく船の上で使うものなのだろう。手入れが行き届き、一通りの工具の他に、釣り針や網の繕いに使う細い針のような道具もあった。
        
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    <title>第二章　海辺の村（中）（６）</title>
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    <published>2008-12-14T15:00:41Z</published>
    <updated>2008-12-14T15:15:12Z</updated>
    
    <summary>「ルチア、本当に直せるの？」 　横から聞いたポジートに、ルチアは、たぶん、と微笑んだ。 「中を見てからでないとわからないけれど」 　さっそく工具を手にとってラジオの木の蓋のネジを外す。 「見て、ポジート。ここが断線している。これなら直せる。それとほら、これが真空管。ここで周波数を変換するの。面白いでしょう？」 　ルチアが瞳を熱くして語ると、 「ん――、よくわかんない」 　ポジートは頬杖をついたまま...</summary>
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        <name>ルルル文庫創刊準備スタッフ</name>
        
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            <category term="003第二章　海辺の村（中）" />
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://lu3.gagaga-lululu.jp/lucia/">
        「ルチア、本当に直せるの？」
　横から聞いたポジートに、ルチアは、たぶん、と微笑んだ。
「中を見てからでないとわからないけれど」
　さっそく工具を手にとってラジオの木の蓋のネジを外す。
「見て、ポジート。ここが断線している。これなら直せる。それとほら、これが真空管。ここで周波数を変換するの。面白いでしょう？」
　ルチアが瞳を熱くして語ると、
「ん――、よくわかんない」
　ポジートは頬杖をついたまま首をかしげた。
　あまり興味はなさそうだ。
　そこでルチアはラジオの修理に集中することにした。黙々と手を動かすうちに、周囲の物音が遠くなる。
　それからしばらく――。
　ポジートが退屈そうにあくびをしはじめた頃、ルチアはラジオの修理を終えて、ふうっ、と大きく息をついた。
　そっとラジオのスイッチをいれる。慎重にチューナーを回すと、ラッパ型の旧式のスピーカーからノイズが漏れ、やがて、音声がブツブツと途切れがちに聞こえはじめた。南部の辺境に位置しているせいで受信状況はあまり良くないが、ニュースを読み上げる男の声が少しずつ輪郭をもちはじめる。
「すごい！　ほんとに直しちゃったんだ！」
　ポジートが声を上げると、周囲から大きな感嘆の声が聞こえた。
　ルチアは驚いて顔を上げた。
　いくつもの日に焼けた顔が、物珍しそうに、感心したようにこちらを見つめている――どうやら、村で一つしかないラジオの修理を聞きつけて、村人たちが集まって来ていたらしい。　知らぬ間に注目されていたことに戸惑いながらも、ルチアはラジオの音量を上げた。
　――ラジオニュースは、ミラーノの臨時政権の要職に就いた人物たちの名前を読み上げているところだった――いずれも、軍人、あるいは軍部とつながりが深い人物ばかりだ。
　しばらく、ルチアは村人たちとラジオに聞き入っていたが、家族とエリアスについては報じられなかった。代りに、武装親衛隊に『特別警察権』という、一般の警察よりも強制力があり、反体制分子の摘発に強硬な手段を用いる権限が与えられたという嫌なニュースが伝えられた。まるで秘密警察のようだ――いかにもミラーノらしい。
　やがて午後のニュースが終わり、ラジオからは単調なクラシック音楽が流れはじめた。　　ルチアが溜息をつくと、同じように村人たちの間からも溜息が漏れた。
「いやな、時代だね」
「ミラーノなんて信用できたもんじゃない……」
「怖いねぇ」
　集まっている人々の間に、ざわめきが波紋のように広がっていく。
　ルチアはとっさに耳を澄ませた。村の人たちが、今回のクーデターをどう思っているのか知りたかった。自然と鼓動が早くなる。
「民主派のお偉いさんたちは何してるんだ。やられっぱなしじゃねえか」
「無理言うなよ、王様だって捕まったんだ。ミラーノに反抗すれば、どんな目に合うかわからねえだろ」
「エリアス・レイはどうしたんだ」
「……殺されちまったって噂だぞ」
　ルチアは指先が白くなるほどテーブルの端を握りしめた。村人たちの話をこれ以上聞くのが怖いような気がした。けれど、聞かずにはいられない。
「……新しい政府の要人は、軍人さんばかりだな」
「また、戦争でもするつもりかね……」
　誰かがポツリと呟いた言葉に、重苦しい沈黙がおちた。
　どうしたのかと思ってルチアが顔を上げると、驚くほど深刻で暗い顔をした人々の姿が目に飛び込んできた。
　誰も口を開かない――ただ、不安そうで、そして、なぜか悲しそうに見えた。
  軍事色の強い独裁政権には必ず戦争の影がつきまとう。事実、ミラーノはかねてから軍事力を背景に領土の拡大を積極的に図るべきだと主張してきた。だから、人々が戦争を危惧する気持ちはわかる。また戦争が起きるのではないかと不安なのだ。
　いつの間にか日が陰り、溜息と沈黙が折り重なった部屋に湿った風が吹き込んできた。夕立の気配がする――。

        
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    <title>第二章　海辺の村（中）（７）</title>
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    <link rel="service.edit" type="application/atom+xml" href="http://lu3.gagaga-lululu.jp/mt/mt-atom.cgi/weblog/blog_id=8/entry_id=389" title="第二章　海辺の村（中）（７）" />
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    <published>2008-12-16T15:00:31Z</published>
    <updated>2008-12-16T15:15:12Z</updated>
    
    <summary>「ルチア？」 　ふいにポジートがルチアの腕を揺すった。 「俺も、直してほしいものがあるんだけど……」 　それは、難しい顔をしている大人たちを憚るような、小さな囁き声だった。 「わかった、持ってきて」 　ルチアも小声を返すと、ポジートはたちまち奥の部屋に姿を消した。何かを探しているらしく、なかなか戻ってこない。ふと窓の外を見ると、真っ黒な雲がみるみる空に広がっていくのが見えた。中庭の木々がざわりと風...</summary>
    <author>
        <name>ルルル文庫創刊準備スタッフ</name>
        
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            <category term="003第二章　海辺の村（中）" />
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://lu3.gagaga-lululu.jp/lucia/">
        「ルチア？」
　ふいにポジートがルチアの腕を揺すった。
「俺も、直してほしいものがあるんだけど……」
　それは、難しい顔をしている大人たちを憚るような、小さな囁き声だった。
「わかった、持ってきて」
　ルチアも小声を返すと、ポジートはたちまち奥の部屋に姿を消した。何かを探しているらしく、なかなか戻ってこない。ふと窓の外を見ると、真っ黒な雲がみるみる空に広がっていくのが見えた。中庭の木々がざわりと風に揺れる。
　やがて、夕立を察した人々が一人、二人と帰っていき、ポジートが居間に戻ってきたときには、家の中は静かになっていた。
　ポジートが、よいしょ、とルチアの隣の椅子によじ登る。
「みんなは？　もう帰っちゃったの？」
「うん、海が時化そうだから船をつなぎに行くって」
　そっか、とポジートは頷き、手に持った男物の腕時計をルチアに差し出した。
「これ、直せる？」
　ルチアは腕時計を受け取ると、さっそく吟味しはじめた。
　秒針は冷たく沈黙したままだったが、設計は単純で、作りが大きく修理はしやすそうだ。
「うん、大丈夫そう。これはお父さんの？」
　ルチアの何気ない質問に、ポジートが首を横に振った。
「ううん、兄ちゃんの」
　ルチアは軽く目を見開いた。ポジートに兄がいることは初耳だった。
「お兄さんもいるんだ……」
「うん、けど、戦争で死んじゃってさ。これはカタミなんだ。ルチアが直してくれたら、俺、毎日つけるよ」
　ルチアは、胸の辺りがさわさわするのを感じた。
「……戦争？　西大陸戦争で亡くなったの？」
「うん。兄ちゃんだけじゃないよ。この村からシュッセイした男たちは、ほとんど帰ってこなかった。俺はまだちっちゃくてよく覚えてないけど」
　――だからさっき、村の人たちはあんなに暗い顔をしていたのか――。
　ルチアは落ち着かない気持ちになって、手に持った腕時計を何度もひっくりかえした。
　――悪名高き西大陸戦争。
　戦車や毒ガスなどの新たな武器が生み出され、今までの戦争をはるかに凌駕する被害を西大陸全土にもたらした。まさに新時代の悪夢――二年間で、数百万人もの兵士が戦死した。
　ルチアが思わず言葉を失っていると、ポジートがいつも通りの明るい声で言った。
「それ、ヘリファルテが持ってきてくれたんだ」
「……ヘリファルテが？」
　思いがけない言葉にルチアが聞き返したとき、ちょうど開けっぱなしの戸口から小さな子供の泣き声が聞こえた。
「あ、チビたちめ。またケンカしやがって」
　小さく舌打ちをしたポジートが、するりと外へ駆け出していく。
　子供たちの中では年長なのだろう。路上ですねたり、ぐずったりする子供たちを、ポジートが大人の口調をまねして宥めすかしはじめる。
「……その腕時計ね、先生が届けてくれたんだよ」
　顔を上げると、キッチンにいたはずのポジートの母が、静かにこちらを見つめていた。
「先生が軍医をしていたのは知ってるでしょ？」
　軍医――ヘリファルテから、そんなことは一言も聞いていない。
　ルチアが無言でいると、ポジートの母が寂しそうに笑った。
「先生は、戦地で息子を看取ってくれたんだよ。そのとき、息子が自分の腕時計を弟に渡してほしいって頼んだんだって。それで、こんな田舎にまで、わざわざ届けに来てくれてね。安物の時計だけど、レクエルド……息子はすごく気に入っていて――きっと弟のポジートに譲りたかったんだろうね」
　そう言うと、ポジートの母は棚に飾られた写真立てに視線を向けた。そこには、ポジートとよく似た青年の笑顔が写っていた。
　ルチアは思わず目をそらした。
　母を、銃撃事件で失ったときのことを思い出した。そしてあの事件をきっけにして起きた西大陸戦争のことも――。
　だからこそ、感情が入り乱れて上手く思いを伝える言葉が見つからなかった。
　黙ってうつむいたルチアに、ポジートの母が慌てたように笑った。
「ごめん、ごめん、暗い話をして。いま、お茶をいれるよ。せっかくだからゆっくりしておいきね」
　さばさばとした口調だったが、それがなおさらルチアの胸をついた。
「あの……」
　ルチアは、キッチンに戻りかけたポジートの母を思わず呼び止めた。
「この腕時計、必ず直します、ポジートが大きくなってからもずっと使えるように」
　今の自分にできることは、これくらいしかない。　
　ポジートの母が、ふっと温かい微笑みを浮かべた。
「ありがとう」　　
　外では夕立が降り出し、激しい雨音とともに、貝殻で作られた窓飾りがシャラシャラと揺れていた。

        
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    <title>第二章　海辺の村（中）（８）</title>
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    <link rel="service.edit" type="application/atom+xml" href="http://lu3.gagaga-lululu.jp/mt/mt-atom.cgi/weblog/blog_id=8/entry_id=390" title="第二章　海辺の村（中）（８）" />
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    <published>2008-12-18T15:00:07Z</published>
    <updated>2008-12-18T15:00:11Z</updated>
    
    <summary>　夕暮れの浜辺に佇むルチアの後ろ姿を見て、ヘリファルテは足を止めた。 「ルチア」 　しかし、彼女は振り返らない。それでもヘリファルテはかまわなかった。考え事をしているとき、彼女は外の世界から少しだけ離れてしまう。 　何を考えているのか、ルチアはまるで彫像のように動かず、黒い髪をはたはたと潮風に舞わせている。 　――ルチアを浜辺で見つけてから、もう十日が過ぎた。 　傷の回復は早く、少しずつ健康を取り...</summary>
    <author>
        <name>ルルル文庫創刊準備スタッフ</name>
        
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            <category term="003第二章　海辺の村（中）" />
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://lu3.gagaga-lululu.jp/lucia/">
        　夕暮れの浜辺に佇むルチアの後ろ姿を見て、ヘリファルテは足を止めた。
「ルチア」
　しかし、彼女は振り返らない。それでもヘリファルテはかまわなかった。考え事をしているとき、彼女は外の世界から少しだけ離れてしまう。
　何を考えているのか、ルチアはまるで彫像のように動かず、黒い髪をはたはたと潮風に舞わせている。
　――ルチアを浜辺で見つけてから、もう十日が過ぎた。
　傷の回復は早く、少しずつ健康を取り戻している。
　ヘリファルテは、しばらくルチアの後ろ姿を見つめてから、わざと砂を踏む音を立てながら近づいた。気配を察してルチアが振り返る。
「ヘリファルテ」
　考えごとから現実に戻ったときの癖なのか、ルチアは驚いたように瞬きをすると、照れたような微笑みを浮かべた。足下に置かれた大きめの魚篭を指差す。
「ミシンの修理をしたら、お礼にくれたの」
　見ると、魚篭の中で淡い黄白色をしたエビがぴちぴちと跳ねていた。　
  先日、散歩に出して以来――。
　ルチアの元には村中から壊れた機械の修理が殺到していた。ルチアはその一つ一つを丁寧に修理し、あっという間に生き返らせる。
「お礼なんて、いらないと言ったのだけど……」
　しかし、ルチアがどんなに断わろうとも、魚介類や手作りの料理が毎日のように診療所に届けられる。おそらく、村人たちはルチアに好意をもっているのだろう。ルチアは素直で穏やかな性質の娘だから、自然とその場に馴染む。育ちの良さは如実に物腰に現れているが、面白いほどに、支配階級特有の威勢や気位の高さは感じられない。
「この種類のエビは、どうやって料理をしたらいいの？　焼く、煮る、それとも生？」
　などと、真剣な顔つきでエビを眺めている。
　しかし――、
　ヘリファルテは、ルチアの繊細な横顔をそっと見つめた。
　彼女はここで、ほんの一瞬でさえ、リラックスしたことはないだろう。わずかに寄せられた眉根と、深刻そうに引き結ばれた唇を見ればわかる。とくに、ポジートの家に行ってからは、何かをひどく案じ、考え込んでいることが多くなった。こうしていても、頭の中ではいつも別のことを考えている。それを裏付けるかのように、ルチアの唇からふと小さな溜息が漏れた。
「どうしたんだい？」
　ヘリファルテの問いかけに、ルチアが迷ったように視線を彷徨わせてから切り出した。　
「連絡を取りたい人がいるのだけど、その人が今どこにいるかわからないの。何とかして、彼と会おうと考えているのだけど――」
　その言葉に、ヘリファルテは目を光らせた。
　おそらく、ルチアは民主派の有力者と連絡を取ろうとしているのだろう。
　今のルチアを確実に保護し、力を貸すことができる人物、さらには、王女である彼女と今後の指針をともに考えることができる人物――、
「エリアス・レイ、か」
　民主派のリーダーの名前を口にすると、ルチアがきゅっと唇を引き締めた。
「そう、エリアス・レイ。早く彼と会わなければ――」
　ヘリファルテは難しい顔になった。
「……しかし、エリアスのことは新聞でもラジオでも報じられていない。彼が動けば、必ずニュースになるはずだ。噂では――」
　そこでヘリファルテは言葉を切った。ルチアとエリアスがいとこ同士であることに思い至り、そのさきを話すことが忍びなかった。
　噂では、エリアスは、すでに暗殺されたのではないかと言われている――。
　しかし、ルチアは毅然と顔を上げた。
「エリアスは生きている」
　風の中で、ルチアの青緑色の瞳がいつになく強く煌めいた。
「なぜ彼の情報が流れないのか――。そのことについてずっと考えていたの。もし、エリアスが死んでいれば、ミラーノは必ずそれを公表する。民主派の人間の志気をくじくために。けれど、十日も経つのにミラーノはエリアスについて何も情報を公開していない。それはきっと、エリアスを取り逃がしたからだと思う」
　ルチアは、自分に言い聞かせるように何度も頷いた。
「だから、エリアスは生きていて、どこかでミラーノに反撃する機会をうかがっているはずよ」
　ヘリファルテは感心した。確かに、ルチアの推理には一理ある。
「問題は、いまエリアスがどこにいるか、か――」
　ヘリファルテの言葉に、ルチアが途方にくれたように頷いた。
　その様子を見て、ヘリファルテの頭に一人の男の顔が浮かんだ。
  ……彼なら、エリアスの行方を捜し出すことができるかもしれない。あの男を頼るのは不本意だが、今のルチアには彼のような人間の助けが必要だ――。

        
    </content>
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    <title>第二章　海辺の村（中）（９）</title>
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    <link rel="service.edit" type="application/atom+xml" href="http://lu3.gagaga-lululu.jp/mt/mt-atom.cgi/weblog/blog_id=8/entry_id=391" title="第二章　海辺の村（中）（９）" />
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    <published>2008-12-21T15:00:50Z</published>
    <updated>2008-12-21T15:15:11Z</updated>
    
    <summary>　しばらくヘリファルテが考えを巡らせていると、ルチアがじっと、神妙な顔つきでこちらを見上げていることに気がついた。ヘリファルテが問いかけるように目を合わせると、ルチアがためらいがちに口を開いた。 「そういえば……、ポジートのお兄さんの腕時計を直したのだけど」 　ヘリファルテが軽く目を瞠ると、ルチアが慌てたように弁解した。 「ごめんなさい……！　ただ、あれはあなたが届けに来たものだと聞いたから――」...</summary>
    <author>
        <name>ルルル文庫創刊準備スタッフ</name>
        
    </author>
            <category term="003第二章　海辺の村（中）" />
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://lu3.gagaga-lululu.jp/lucia/">
        　しばらくヘリファルテが考えを巡らせていると、ルチアがじっと、神妙な顔つきでこちらを見上げていることに気がついた。ヘリファルテが問いかけるように目を合わせると、ルチアがためらいがちに口を開いた。
「そういえば……、ポジートのお兄さんの腕時計を直したのだけど」
　ヘリファルテが軽く目を瞠ると、ルチアが慌てたように弁解した。
「ごめんなさい……！　ただ、あれはあなたが届けに来たものだと聞いたから――」
「いや、いいんだよ。そうか――直ったのか」
　良かった、と呟いたヘリファルテに、ルチアがそろりと問いかけた。
「軍医を、していたの？」
「もう昔のことだよ」     
「……」
　ルチアがじっとこちらを見上げる。その無言の問いかけに、ヘリファルテは小さく笑った。
「あの頃、僕はまだガキで、バカだったんだ。だから、医科大学の仲間と勇んで軍医に志願した――愚かな冒険心にかられてね。戦場で何が起きているかも知らずに――」
　神経質に長い睫毛を瞬かせるルチアを、ヘリファルテはゆっくりと見おろした。
　普段なら、戦争の話題は避けるのだが、なぜか――彼女には話しておきたい気がした。
「戦場の光景は、まさに地獄だったよ。空はいつも灰色で――兵士たちはまるで人形みたいにバタバタと倒れていく。砲弾と冷たい泥の中、手当てをしているそばから死んでいくんだ」
　血と泥の色が瞼の裏に蘇り、ヘリファルテは目をきつく閉じた。
「誰も彼もみんな言うんだ。ちょうど浜辺で君が言ったように『たすけて』って、『助けてくれ、先生』って――、僕が助けを求める人間を放っておけないのはそのせいだ。今でも彼らの声が頭から離れない――」
「ヘリファルテ……」
　ルチアの青緑色の瞳が、うっすら潤んでこちらを見上げたので、ヘリファルテは笑って古い感傷を打ち消した。
「だけど、もう戦争は終わったんだ。僕はその悪夢から抜け出すために、この村に立ち寄った。ポジートの兄さんの遺品を届けにきた僕を、村の人たちは歓迎してくれたよ。彼らも戦争で多くのものを失っていたからね」
「……それで、無料診療所を？」
「ああ。僕はしばらくここに滞在し、請われるままに診療所を開くことにした。この村の人たちとなら、一緒に心の痛みを乗り越えられるような気がして――」
　ヘリファルテは、夕日に染まる海と空を眺めた。
　そこは夜の藍色と昼のオレンジ色が混じり合い、見る者に、何か神聖で超越した存在――例えば天国とかそういったものを感じさせた。
「マナーニャの浜は綺麗だろう？　ここにいると、戦場で起きたことが嘘のように思える。どんなにひどいことが起きたあとでも、きっとやり直せると信じられるんだ、君も、そう思わないかい？」
  ヘリファルテの言葉に、ルチアは頷いた。　
　彼の言葉はルチアの心に強く響いた――その静かな微笑みと、透き通った瞳の色も。
　ヘリファルテの中には、痛みを抱えながらも前を見て生きる強さがある――それは、どんなにひどい状況にあっても、希望を見出す力のように思えた。だからこそ、彼は穏やかで温かな人柄を保ち、医者として人を助けることができるのかもしれない。
　そう思うと、ルチアは急に自分が小さく感じられた。
　しばらく、静かな沈黙を波の音に溶け込ませたあと、ルチアは、顔の前にかかる髪の毛を細い指先で払いのけた。
「――私も、あなたのように強くなりたい」
　ヘリファルテは驚いたように目を丸くしたが、やがて、それは肯定の眼差しに変った。
　ルチアは温かい潮風を頬に受けながら思った。
　この数日間、ルチアは自分を襲った現実に戸惑い、自分の非力さばかりを考えてきた。
　けれど、それでは先へは進めないのだ。
　――今の自分に、何を、どこまでできるかはわからない。
　でも――せめて、この現状を何とかしたいと望むのならば、自分にできることを見つけて、それがどんなに小さな事であっても精一杯やってみようと思った――例えば、ポジートの兄の遺品を直したときのように――そうすれば、おのずと道が開け、目の前の困難にも耐えられるような気がした。そう思うと、まるで、心の中にほのかな希望が灯った気分だった。
「ありがとう、ヘリファルテ」　
　ヘリファルテは、しばらく白い砂浜と紫色の薄闇に浮かび上がるルチアの横顔を見つめてから、そっと手を差し出した。
「――行こう、そろそろ風が冷たくなる。傷に障るといけない」
　ルチアは、ヘリファルテの手を素直にとった。温かい大きな手だった。
　星の瞬きが波の音にのって聞こえそうなほど、辺りは静かだった。　
　　  
        
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    <title>第二章　海辺の村（下）（１）</title>
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    <published>2008-12-23T15:00:00Z</published>
    <updated>2008-12-23T15:00:12Z</updated>
    
    <summary>　マナーニャ村に一軒しかない酒場に一人の男がやって来たのは、それから数日後のことだった。 　地味な服を身につけ、これといった特徴のない男は、疲れた足取りでカウンターに近づくと安い酒とつまみを注文した。 　狭い酒場に集まっていた男たちが、胡散臭そうに男を一瞥する。 　男は煙草の煙が充満する酒場を見回した。 　……しけた場所だ。こんな村、仕事でなきゃ絶対に来ない。 　しばらく無言で酒をちびちびと飲んで...</summary>
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        <name>ルルル文庫創刊準備スタッフ</name>
        
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            <category term="004第二章　海辺の村（下）" />
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://lu3.gagaga-lululu.jp/lucia/">
        　マナーニャ村に一軒しかない酒場に一人の男がやって来たのは、それから数日後のことだった。
　地味な服を身につけ、これといった特徴のない男は、疲れた足取りでカウンターに近づくと安い酒とつまみを注文した。
　狭い酒場に集まっていた男たちが、胡散臭そうに男を一瞥する。
　男は煙草の煙が充満する酒場を見回した。
　……しけた場所だ。こんな村、仕事でなきゃ絶対に来ない。
　しばらく無言で酒をちびちびと飲んでいた男は、自分が場に馴染んできたのを見計らってから、店主に話しかけた。
「まったく、いつまでたっても不況だね。首都じゃミラーノってのがドンパチはじめて大騒ぎになってるそうだが、こっちは相変わらず食べてくのに必死だよ」
　無愛想な店主は軽く頷いただけだったが、男はかまわず続けた。
「で、俺は仕事を探してるわけだが、どこに行ってもお断りだってよ。念のために聞くが、ここいらで何かいい仕事はないかね？　荷運びでもなんでもするぜ」
「仕事なんてこの村にはないね、金が欲しいのならパルティールへ行きな」
　そっけなく口を開いた店主に、男は苦笑を浮かべた。
「そうだな、やはりそうしてみるか」
　男は二杯目の酒を注文した。
「そう言えば親父さん、この辺りで何か変わったことはなかったかい？　実は途中で面白い話を聞いてね」
　店主は無言だったが興味を引かれたようだ。外からの情報が少ない分、田舎者は噂話が好きだ。男はさり気なく声の調子を大きくした。背後にいる男たちにも聞こえるように。
「行方不明のお姫様が、この辺りに隠れてるって噂だ。見つけたら賞金がでるんだと」

  
「こんばんは、ルチア。先生はいるか？」
　村のリーダー格の男たちが診療所を訪れたのは、もう深夜に近い時間だった。
　玄関に出たルチアを見て、男たちの顔にどこか緊張した色が浮かぶ。
　その普段とは違う様子に戸惑っていると、診察室の奥からヘリファルテが顔を出した。
「先生、話しがあるんだが……」
　ポジートの父が軽く咳払いをして、ルチアにちらりと視線を走らせた。その意味するところを悟ったのか、ヘリファルテが戸口に立ったままのルチアに声をかけた。
「君はもう休んでいるといい。カルテ整理は明日にしよう」
　ルチアは頷くと、廊下を通り病室に戻った。けれど、自分に向けられた男たちの気遣わしげな視線が気になった。思い切って廊下に忍び出ると、ルチアは居間から漏れ聞こえてくる男たちの声に耳を澄ませた。
「……どうも妙な感じのする奴だった、見たところはただの流れ者だが……行方不明になっているお姫様がこの辺りにいるとか言って……賞金がかけられてるそうだ」
　ルチアは思わず息をのんだ。ドクンと大きく心臓が打つ。
「賞金？　王女(プリンセッサ)に賞金がかけられたのか？」
「ああ、どうやらそうらしいな。ここに手配書がある。髪の色は違うが、あの子にそっくりだ」
「なるほど……、で、誰か喋ったのかい？」
「いや、それは心配しねえでいい。誰もあの子のことを話したりしてねえ。なあ、先生、あの子はまさか……」
「僕の親戚だ」　
　ヘリファルテがきっぱりと遮ると、しばらく沈黙がおちた。
「……そうか、そうだったな」　
　誰かが小さく呟き、やがて、男たちが戸口へ向かう気配がした。扉を開ける音とともに、ポジートの父の低い声が聞こえた。
「先生、あの子が誰であれ、あんたが守ろうとするんなら、俺たちもあの子を守る。……いい子だしな。だから無茶はしないでくれ。必要があれば、いつでも頼ってくれていいんだぜ」
　しばらく間をおいてから、ヘリファルテのおさえた声が聞こえた。
「ああ、すまない……。村のみんなにも、よろしく伝えてくれ」
　男たちが帰ったのを見計らってから、ルチアは居間の扉を開けた。
　食卓に肘をついて座っていたヘリファルテが顔を上げる。
「聞いていたのかい？　そんな暗い所に立っていないで、こっちにおいで」
　驚いた様子もなくヘリファルテの声は静かだった。
「どうやら僕は、事態を甘く見ていたようだ。君がマナーニャに流れ着き、助かったことは奇跡に近い。だから、ここまで本気で君に追っ手がかかるとは思っていなかったんだ」
　ルチアは椅子にすとんと座ると、ヘリファルテの前に置かれた手配書をじっと見つめた。
　そこに描かれているのは、まぎれもなく自分の顔だった。
　――五十万ペセ、という賞金金額が嫌でも目につく。裕福な家庭の一年分の収入に相当する金額だ。

        
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    <title>第二章　海辺の村（下）（２）</title>
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    <published>2008-12-25T15:00:19Z</published>
    <updated>2008-12-25T15:15:12Z</updated>
    
    <summary>「……私は賞金首なの？」 　ポツリと呟くと、ヘリファルテが溜息をついた。　 「ああ。しかも、これだけ多額の賞金だ。君がもし生きてどこかに隠れていれば、必ず情報が集まる。武装親衛隊は、君のことを何としても見つけ出そうとしているようだ」 　ルチアは目を瞬かせ、数拍してから頭を抱え込んだ。 　どっと現実が押し寄せてくる。 　ミラーノがなぜ、こんな強引な手段に出たのか――。ルチアには、すぐに察しがついた。...</summary>
    <author>
        <name>ルルル文庫創刊準備スタッフ</name>
        
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            <category term="004第二章　海辺の村（下）" />
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://lu3.gagaga-lululu.jp/lucia/">
        「……私は賞金首なの？」
　ポツリと呟くと、ヘリファルテが溜息をついた。　
「ああ。しかも、これだけ多額の賞金だ。君がもし生きてどこかに隠れていれば、必ず情報が集まる。武装親衛隊は、君のことを何としても見つけ出そうとしているようだ」
　ルチアは目を瞬かせ、数拍してから頭を抱え込んだ。
　どっと現実が押し寄せてくる。
　ミラーノがなぜ、こんな強引な手段に出たのか――。ルチアには、すぐに察しがついた。
　――きっと黒いオイルのことに気づいたんだ！
　とたんに、恐ろしい予感にとらわれた。
　ルチアが黒いオイルの情報を記憶していることは、父と弟しか知らない。ミラーノがそれを知ったということは――。
　急に心臓が激しく打ちつけ、頭が熱くなった。
　――父と弟の身に、何が起きているのだろう――！？
　黒いオイルについて、二人がミラーノに口を割るはずはない。
　――だとしたら……。
　いてもたってもいられなくなって、ルチアは立ち上がった。勢いで椅子がガタリと床に倒れる。
「早く、なんとかしなくては……！」
　ヘリファルテの手がさっと伸びて、うろたえるルチアの腕をとった。
「落ち着くんだ。マナーニャ村にはめったによそ者は来ないし、村の人たちも味方だ。手配書が出されたからと言って、すぐに危険になるわけじゃない」
　ルチアは激しくかぶりを振った。
「一刻も早く父と弟を助けなければいけなくなったの――！」
　尋常でないルチアの動揺ぶりに、ヘリファルテの目が険しく光った。
「どういうことだ？　なぜ急に――」
　ルチアは言葉を失った。黒いオイルのことは、ヘリファルテにも教えることはできない。
「……とにかく、行かなくては」
「いま動けば、逆に危険だ」
「危険でも行かなくては、とにかくエリアスを捜すわ。それに……」
　ルチアは押し殺した声で囁いた。
「それに、私はこれ以上ここにいてはいけないわ、みんなに迷惑がかかってしまう」
　ヘリファルテの瞳が、まるで痛みをおさえるかのように細くなった。ルチアは食卓に両手をつき、大きく息をついた。　
「あなたも、そう思うでしょう？　私を匿っていることが知られたら、村の人たちがどんな目に合うか……」
  ルチアは、じっとヘリファルテを見上げた。脳裏にエストレリャ号で目撃した武装親衛隊の黒い影が浮かびあがる。
「ミラーノは、私が死んだという確証をつかむまで、きっと、あらゆる手を使って追ってくる。彼にはそれだけのことをする理由があるから――」
　ヘリファルテは表情を硬くすると、ゆっくりと言葉を区切りながら言った。
「だが、君と、僕だけで、エリアスの居所を捜すのはむずかしいだろう」
　それから何かを天秤にかけるように視線を動かした。
「今の君に、力を貸してくれそうな人間を一人知っている。少し変わった仕事をしている男でね、彼ならエリアスの行方を捜しだすことができるかもしれない。実際、そのためにすでに動きだしている可能性もある。味方になれば、この上もなく頼もしい」
　ルチアはさっと顔を上げた。
「その人は、誰？」
「僕の『古い知人』だ」
　ヘリファルテの声に、どこか奇妙な違和感を感じてルチアは首をかしげた。
「『古い知人』？」
「ああ」
　探るような視線を向けると、ヘリファルテの顔に苦々しい色が浮かんだ。
「この診療所に資金を提供している男だ。僕は彼から依頼されて、公の病院で治療を受けられない人間を匿い、手当てし、姿を変えさせて逃がしてきた。そして、それ相応の報酬を受け取っている」
　ルチアは眉をひそめた。
　自分も使った黒い髪染めの瓶を思い出す。それから、この無料診療所にある整った医療設備と豊富な薬剤のことも。
「……よく、わからないのだけど。それは、犯罪に関わることなの？」
「いや、表向きにはできない仕事だが、そのことで誰かが傷ついたり困ったりはしない」
　どういうことなの？　ルチアは詳しく聞きたかったが、話が中途半端にそれてしまいそうなので、代りに『古い知人』について考えることにした。　　
　何らかの力をもつ人間なのだろうか――。漠然とだが、ルチアには、その人物が今の状況を打開する鍵を握っているように思えた。
  ヘリファルテが、ルチアの顔に浮かんだ期待と不安の色を複雑そうに見つめた。
「君さえよければ、明日にでも連絡を取ろう。彼は君に関心を示すはずだ。しかし、断言はできない、万が一、ということもある。信用しすぎるな」
　ルチアは、ヘリファルテの最後の言葉に驚いた。しかし、希望があるからこそ、その男の話をしたのだろう。それに、今は他にとるべき道もない。
「……その人と会ってみようと思う。今はとにかく前へ進まないと」
　そう言ったルチアに、ヘリファルテは、ただ「わかった」とだけ頷いた。
        
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    <title>第二章　海辺の村（下）（３）</title>
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    <published>2008-12-28T15:00:01Z</published>
    <updated>2008-12-28T15:00:13Z</updated>
    
    <summary>　……まったくつまらん無駄足だったな。ここでも収穫なし、だ。 　男は一晩泊まった居酒屋から外に出ると、朝の光に目を細めた。 　こんな小さな村なら不審な娘がいれば必ず目につく。 　酒場の男たちが誰も知らなかったということは、目的の娘はここにはいないということだ。 　そのとき、通り過ぎた家の戸口が開き、中から顔をのぞかせた女が、軒下で遊んでいた子供に甘い焼き菓子の香りがするバスケットを差し出した。 「...</summary>
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        <name>ルルル文庫創刊準備スタッフ</name>
        
    </author>
            <category term="004第二章　海辺の村（下）" />
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://lu3.gagaga-lululu.jp/lucia/">
        　……まったくつまらん無駄足だったな。ここでも収穫なし、だ。
　男は一晩泊まった居酒屋から外に出ると、朝の光に目を細めた。
　こんな小さな村なら不審な娘がいれば必ず目につく。
　酒場の男たちが誰も知らなかったということは、目的の娘はここにはいないということだ。
　そのとき、通り過ぎた家の戸口が開き、中から顔をのぞかせた女が、軒下で遊んでいた子供に甘い焼き菓子の香りがするバスケットを差し出した。
「ポジート、これ、先生に届けておくれ。この前もらった薬のお礼だよ」
「うん、わかった」
　子供はバスケットを抱えて小走りに坂道を下りはじめた。
　先生、薬――？　医者がいるのか？　こんな村に。
　しかし、この付近の小さな漁村には医者などいないはずだ。治療が必要なときは、人々は公立病院があるパルティールまで足を伸ばすと聞いていたが――。
　男は目を光らせた。
　……これは、調べてみる必要があるな。
　男は身を屈めると、まるで影のように子供のあとをつけはじめた。

　
　それから四日目の夜。
　静寂を打ち破るようにマナーニャ村と街道をつなぐ橋の上を、数台の黒い小型の軍用車が通り過ぎた。広場に停車した車から、武装親衛隊が次々と走り出る。
　兵士たちは素早く隊列を組むと、浜辺に向かう細い道を進みはじめた。　
　やがて浜辺に到着すると、兵士たちは無言で診療所を取り囲み、合図とともに一気に扉を蹴破った。
　――数分後、診療所がもぬけの殻だったことを部下が報告すると、険悪な目つきの指揮官が短く舌打ちをした。がさついた声で部下たちに命じる。
「まだ近くにいるはずだ――捜せ」
　そこで指揮官は言葉を切り、ニヤリと唇を歪めた。
「いや、待て。村人たちを広場に集めろ、そのほうが手っ取り早い」
　　
　
　ルチアは、ヘリファルテに手を引かれて真っ暗な地下道を走っていた。
　じっとりとした暗闇の中で呼吸が乱れ、足がもつれて何度も転びそうになる。
  ――『先生！　やばいぞ。さっき村の橋を武装親衛隊が渡ってきた！』
　マナーニャ村で橋の管理人をしているブレトンが、息を切らせながら診療所に駆け込んで来たのは、つい数分前のことだった。
　ブレトンは、村の出入り口である橋の管理小屋で寝起きをしているから、いち早く武装親衛隊の到着に気がついたのだろう。そのお陰で、ルチアたちは、ヘリファルテの寝室にある隠し戸から地下室へ逃げ込む時間を得られた。
　そのすぐあと、武装親衛隊が診療所の玄関を蹴破った。
　頭上で、武装親衛隊が荒々しく診療所内を捜索する物音を聞きながら、ルチアたちは息をひそめてレンガに囲まれた暗い地下道に入った。
　そのまま、行き先もわからないまま、ルチアは暗闇を走っている。
　――先日、村の酒場を訪れたという不審な男のことを思い出す。ただの流れ者ではなく、武装親衛隊の密偵だったのかもしれない。　
　ふいに視界が広がったかと思うと、狭い地下道は村の中に張り巡らされた水路に出ていた。
　三メートルほど地面を掘り、レンガで囲っただけの水路だ。中央に水が浅く流れている。
　ヘリファルテが、ブレトンを振り返った。
「村の裏側のはね橋を下ろせるかい？」
「ああ」
　暗闇の中でブレトンが短く頷いた。
　ルチアは、村の裏側に古いはね橋があったことを思い出した。
　用途の必要性が少ないため、普段は使われずに上げられたままになっている。村の人間以外はその橋の存在を知らない。
　ヘリファルテがルチアに口早に囁いた。
「この水路は裏側のはね橋の近くまで続いている。そこから村を出よう――武装親衛隊に気づかれる前に急ぐんだ」
　そう言うと、ヘリファルテは水路の壁に背中を押しつけるようにして進みはじめた。ルチアもそれに倣ったが、広場に続く橋の下に差しかかったところで、村人たちの動揺したざわめきと、兵士たちの物々しい足音や怒声が聞こえてきた。
　ヘリファルテが足を止めて、険しい顔つきで頭上をうかがう。
「どうやら、武装親衛隊は広場に村人を集めているようだ」
　とたんに、ルチアは背筋を強張らせた。嫌な予感に冷たい汗がどっと噴き出す。
「武装親衛隊は、私のことを探しているんだわ――！」
　ヘリファルテは短い思案のあと、ルチアの手をとった。
「考えるな、とにかく村を出るんだ」
　ルチアはびっくりして目を大きく見開いた。
「まさか！　行けないわ。武装親衛隊がこの村に来たということは、私がいるという確証があるからよ。だから、彼らは真っ直ぐに診療所まで来た。このまま私が見つからなければ、村の人たちがひどい目に合ってしまう……」
　その言葉を裏付けるかのように、広場の方角から人々の悲鳴が聞こえはじめた。
        
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    <title>第二章　海辺の村（下）（４）</title>
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    <published>2008-12-30T15:00:46Z</published>
    <updated>2008-12-30T15:15:12Z</updated>
    
    <summary>　反射的に広場の方向へ顔を向けたルチアの肩を、ヘリファルテが両手で押しとどめた。 「君は逃げるんだ」 　ルチアは首を横に振った。 「できない、村の人を残して逃げるなんて……」 　立ちすくんだルチアの背中を、今度はブレトンがそっと押した。 「先生の言うとおりだ。村のことは気にしなくていい。あんたは逃げろ」 「なぜ？　あなたも危険な目に合うかもしれないのに」 　振り向いたルチアに、ブレトンは低い静かな...</summary>
    <author>
        <name>ルルル文庫創刊準備スタッフ</name>
        
    </author>
            <category term="004第二章　海辺の村（下）" />
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://lu3.gagaga-lululu.jp/lucia/">
        　反射的に広場の方向へ顔を向けたルチアの肩を、ヘリファルテが両手で押しとどめた。
「君は逃げるんだ」
　ルチアは首を横に振った。
「できない、村の人を残して逃げるなんて……」
　立ちすくんだルチアの背中を、今度はブレトンがそっと押した。
「先生の言うとおりだ。村のことは気にしなくていい。あんたは逃げろ」
「なぜ？　あなたも危険な目に合うかもしれないのに」
　振り向いたルチアに、ブレトンは低い静かな声で言った。
「いいか、ルチア。先生はこの村の家族だ。あんたは……あんたは先生の『親戚』だろ？　だったら助けるのに理由はねえ、だから、な、いい子だから先生の言うことを聞くんだ」
　直後、暗闇の中で一発の銃声が響いた。広場から人々の悲鳴が一斉に上がる。
　何かとんでもないことが起きている――！
　ルチアは、とっさにヘリファルテの手を振りほどくと、水路の壁にかけられた梯子に駆け寄った。震える手足で梯子を登りはじめる。
「待て！　ルチア」
　地上に出て、そのまま広場に向かって駆け出したルチアを、ヘリファルテの大きな手が、すぐに捕まえた。そのまま広場の前に建つ真っ暗な教会の壁にルチアの身体を押さえ込む。　教会の暗い影に隠れて、広場からはこちらは見えない。しかし、ルチアの目にはライトで照らされた広場の光景がよく見えた。
「……！」
　悲鳴を上げかけたルチアの口を、ヘリファルテがとっさに塞いだ。
「ちくしょう！」　　
　ルチアを腕に抱え込んだまま、ヘリファルテが低く呻いた。

　悲鳴が渦巻く広場の中央には、撃ったばかりの銃を手にした指揮官らしい男が立っていた。　その足下に、うつぶせに倒れたポジートの姿が見えた。
　小さな身体の下に、赤い血の色が広がっていく。
　――ポジート！
　ルチアはとっさに広場に駆け出そうとしたが、ヘリファルテの腕に押しとどめられた。
　広場では、ポジートの母が悲鳴を上げながら息子の身体に取りすがるのを尻目に、指揮官が声を張り上げている。
「いいか、何度も言わせるな！　我々は王女クエルヴァの捜索を行っている。よく似た娘がここに匿われていることはもうわかっているのだ！　反抗すれば子供であっても容赦はしない。知っている者は素直に王女の居場所を教えろ」　
　その様子にヘリファルテがぎりっと奥歯をかみしめた。ルチアの耳元に素早く唇を寄せる。
「いいか、君は、村の裏側まで走れ。ブレトンが先に行って橋を下ろしている」
　そう言いながら、ヘリファルテは自分の肩にかけていた革鞄をはずすと、ルチアの肩にかけた。診療所から逃れる前に、彼がつかむようにして持ってきたものだ。
「僕の『古い知人』は、ディーアに住んでいる。電報で知らせてあるから、彼には君のことがわかるはずだ。鞄の中には、君のことを書いた手紙が入っている。封筒の宛名の住所を訊ねろ。パルティールまで歩いて、そこから汽車に乗るんだ」
「――まって、いったい何を言っているの？」
　一気に説明されて、ルチアは頭を混乱させた。
「君は逃げるんだ」
「だめ……！　だってポジートが……！」
　ヘリファルテが、ルチアの頬を両手で包んだ。
「ポジートは僕が必ず助ける。だから君はディーアへ行くんだ」
　ルチアは何度も首を振った。感情がゴチャゴチャになって、どっと涙がこぼれだす。
「いや！　一人でなんて逃げられない！」
　すると、ヘリファルテがルチアの身体を揺さぶった。
「しっかりしろ！　強くなるんだ。君はここで捕まってはいけない。君にはやるべきことがあるんだろう？」
　ルチアは喉の奥で嗚咽をのみこんだ。
「ご家族を助けるんだろう？」
　ヘリファルテが、ルチアの震える身体を強く引き寄せた。
「そして、ミラーノを止めてくれ……あいつはいつか必ず戦争を起こす、頼む――姫殿下(プリンセッサ)！」
　ルチアは目を瞠った。まるで雷に打たれたような気持ちになった。
　ヘリファルテが、ルチアのことを『姫殿下(プリンセッサ)』と呼ぶのはこれが初めてだった。
　一瞬、周囲の音が全て聞こえなくなった。ただ、こちらを真摯に見つめるヘリファルテの瞳がすぐそばに見えた。しばらく息を止めてヘリファルテの強い眼差しを見つめたあと、ルチアは思い切って瞳に力を込めた。しっかりと頷く。
「約束する……！　だから――あなたも無事でいると約束して」
　ヘリファルテは答えず、ただルチアの額に強く口づけた。
「――さよなら、ルチア」
　直後、ヘリファルテはルチアを突き放すと、そのまま広場へと走り出て行った。

        
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    <title>第二章　海辺の村（下）（５）</title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://lu3.gagaga-lululu.jp/lucia/2009/01/post_29.html" />
    <link rel="service.edit" type="application/atom+xml" href="http://lu3.gagaga-lululu.jp/mt/mt-atom.cgi/weblog/blog_id=8/entry_id=396" title="第二章　海辺の村（下）（５）" />
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    <published>2009-01-01T15:00:50Z</published>
    <updated>2009-01-13T03:41:46Z</updated>
    
    <summary>  薄暗い道をルチアは走った。もう後戻りはできない。 　はあ、はあ、と吐き出される乱れた呼吸が、まるで他人のもののように聞こえた。 　広場に倒れていたポジートの姿が脳裏に浮かび、目の前でくるくると旋回する。 　何度も転びかけながら石畳の広い道に飛び出したとき――、 　突然、車のヘッドライトが視界一杯に飛び込んできた。 　――轢かれる！ 　横から走ってきた黒い軍用車に、ルチアは目をつぶって身体をすく...</summary>
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        <name>ルルル文庫創刊準備スタッフ</name>
        
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            <category term="004第二章　海辺の村（下）" />
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://lu3.gagaga-lululu.jp/lucia/">
          薄暗い道をルチアは走った。もう後戻りはできない。
　はあ、はあ、と吐き出される乱れた呼吸が、まるで他人のもののように聞こえた。
　広場に倒れていたポジートの姿が脳裏に浮かび、目の前でくるくると旋回する。
　何度も転びかけながら石畳の広い道に飛び出したとき――、
　突然、車のヘッドライトが視界一杯に飛び込んできた。
　――轢かれる！
　横から走ってきた黒い軍用車に、ルチアは目をつぶって身体をすくませた。激しい急ブレーキと、タイヤが石畳を滑る音が響く。おそるおそる目を開けると、車はルチアからわずか数十センチの場所で急停車していた。ヘッドライトの白い光に手をかざし、車に乗っている二人の男の顔を見た瞬間、ルチアは息をのんだ。
　彼女と同じように驚いた様子でこちらを見つめているのは、アギラス・デスティノとエストレリャ号でルチアを撃ったセルピエンテだった。
「……！」
　ルチアは反射的に身を翻して走りはじめた。石畳の通りを渡りきり、細い小路へと入り込む。
「俺が追う！　セルピエンテ、おまえは先に広場へ向かえ」
　背後でアギラスの声が聞こえ、車が急発進して遠ざかっていく音が聞こえた。
　自分を追ってくるアギラスの足音に、ルチアは懸命に足を動かした。
　村の裏手に出ると、小さなはね橋がすでに下ろされているのが見えた。ブレトンが、ルチアに向かって大きく手を振る。
「来い！！　ルチア、急げ！」
　同時にアギラスの姿をみとめたのか、ブレトンはそのまま管理小屋に駆け込んだ。モーターがうなる音が聞こえ、はね橋がゆっくりと上がりはじめる。
　はね橋にたどりつくと、ルチアはすでに肩の高さまで上がった橋に両手をついた。右肩の痛みを堪えながら身体を持ち上げ、そのまま傾斜を転がるようにして橋を渡る。対岸にたどりつくと、ルチアは勢いで倒れこみ、土に手をついた。
　がしゃん！  と背後で、はね橋が完全に上がりきった重い音が響く。
　ルチアが肩で大きく息をつきながら身体を起こして振り返ると、上げられた橋の向こうにアギラスの姿が見えた。
　早く逃げなくては――！　
　心はそう悲鳴を上げていた。けれど、なぜか足が動かなかった。
　わずか数メートルの川を挟んで向き合うアギラスは、銃を抜くこともなく、エストレリャ号で会ったときと同じように、ただ深いブルーの瞳でこちらを見つめていた。
　恐れと怒りが入り混じった感情がこみ上げ、ルチアは涙の溢れそうな瞳で、きっとアギラスを睨みつけた。アギラスが目を細めてわずかに身を引く。
「姫殿下(プリンセッサ)」
　軍人らしくよく通る声は、対岸にいるルチアの耳にも不思議とはっきりと届いた。
「姫殿下(プリンセッサ)、落ち着いて聞いてください。国王陛下(レクス)と王太子殿下(プリンシペ)はご無事です。お二人はお心を強く保っていらっしゃる」
「――！？」
　思いがけない言葉に、ルチアは鋭く息をのみこんだ。
　――いま、何と言ったの――！？
「エリアス・レイは生きてる」
　さらに投げかけられた言葉に、ルチアはますます頭を混乱させた。驚きと戸惑いが頭の中に一気に広がる。
　激しく打ちつける鼓動を聞きながら、ルチアはアギラスと見つめ合った。
　月の光が川の水面できらきらと輝き、夏の夜風がふわりと吹き抜ける。
　再びアギラスが口を開きかけたとき――、
　ふいに眩しいライトの光りがルチアの瞳に飛び込んできた。
　瞬きをしながら光りの方向を見ると、アギラスの背後から、こちらに近づいてくる黒い軍用車が見えた。おそらく、村の裏側のはね橋の存在に気がつき、武装親衛隊が見張りをつけるためにやって来たのだろう。
　アギラスはちらりと肩越しに視線を走らせると、急に語調を強めた。
「行け！　エリアスに会え、『Ｗ２９Ｘ０Ｊ』」
　それだけ言うと、アギラスは踵を返した。
　何事もなかったかのように肩で風をきりながら、村の中へと歩き去っていく。
　取り残されたルチアは、ただ呆然と暗闇に消えていくアギラスの後ろ姿を見つめていた。
　しかし、こちらに近づいてくる車のタイヤの音に、ルチアはすぐに我に返った。素早く身を翻して橋から離れる。
　そして、ルチアは真っ暗な夜の道をたった一人で走りはじめた。

        
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    <title>『ルチア　クラシカルロマン』ＷＥＢ連載をご愛読いただきありがとうございました！</title>
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    <id>tag:lu3.gagaga-lululu.jp,2009:/lucia//8.412</id>
    
    <published>2009-01-05T15:57:37Z</published>
    <updated>2009-01-13T03:39:31Z</updated>
    
    <summary>『ルチア　クラシカルロマン』ＷＥＢ連載をご愛読いただきありがとうございます。 　先週アップ分をもちまして、連載を終了させていただきます。 　この続きは現在発売中の文庫でお読みいただけますので、そちらもあわせてお楽しみいただければ幸いです。 ルルル文庫編集部　２００９年１月６日...</summary>
    <author>
        <name>ルルル文庫創刊準備スタッフ</name>
        
    </author>
            <category term="005編集部からのお知らせ" />
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://lu3.gagaga-lululu.jp/lucia/">
        <![CDATA[『ルチア　クラシカルロマン』ＷＥＢ連載をご愛読いただきありがとうございます。
　先週アップ分をもちまして、連載を終了させていただきます。
　この続きは現在発売中の<a href="http://gagaga-lululu.jp/lululu/sinkan/sinkan0812.html#sin0">文庫</a>でお読みいただけますので、そちらもあわせてお楽しみいただければ幸いです。

ルルル文庫編集部　２００９年１月６日]]>
        
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