二話 (1)

 それから三年。  齢十六の、都の春―― 「ちょっと愛鈴、赤い衣装、まだ届かないの」 「もうすぐ来ます!」 「愛鈴、私の簪どこにやったのよ!」 「桃の簪なら、翠花さんが貸してほしいって持っていきましたよー!」 「馬鹿! 取り返してらっしゃい!」 「はいっ」 「ねぇねぇ愛鈴、私の緑の帯知らない?」 「大部屋の椅子に掛けてあったの、違いますかー?」 「愛鈴、何ぐずぐずしてるの! 鏡持ってきなさいって...

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二話 (2)

 帯だ簪だとあちこちから呼ばれ、ようやく手伝いを終えてから、急いでさっきの箱の中にたった一着残っていた衣装を持って自分の部屋に戻り、支度に取り掛かった。今日は愛鈴も、後ろで踊れることになっている。 「やだ、愛鈴てば、まだ髪も結ってないじゃない」  顔を出したのは、同じころ宮妓になった佳葉である。愛鈴と同い年で、商家の四女だというこの妓女が、愛鈴と一番親しかった。 「あんたって、ほんっとにお人好しね...

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二話 (3)

「佳葉、愛鈴、遅い!」 「すみませんっ」 「ほら、あたしまで怒られた……」  慌てて列の後ろにつくと、すぐ横に楽器を持った楽人たちも並んでいた。琵琶を抱えた老人が、愛鈴を見つけて歩み寄ってくる。 「やぁ、愛鈴。あんたは今日、前には出んのかね」 「わたしが出ることなんて、ないわ」 「そりゃあ残念だ。速い曲でやらせりゃ、あんた一番上手いのにな」 「……まさか。まだまだだよ、わたしなんて」 「しかし――...

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二話 (4)

 揃っていたのはそこまでで、あとは各々が、酒を飲み料理を食し、次々繰り広げられる妓女の歌や曲芸を眺め、技芸より話術に長けた宮妓をはべらせていた。  そんな中で慧俊は、独り黙したまま、物憂げな表情で酒を飲んでいる。  ……どうして。  もしかして本当に、あの夜のことは――あの夜の微笑みは、幻ではなかったのかと。  そう思ってしまうほどに、慧俊の表情は暗かった。  だが、そこにいるのは、間違いなくあの...

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