七話 (1)

 以前、結婚のため宮妓を辞めた妓女から貰った、袖のゆったりとした薄紅色の衣に、赤地に花の刺繍のある裾の短い上着を羽織り、佳葉から借りた、黄色の帯を締める。  昼間に洗った髪を丁寧に結い上げ、小さな梅の簪を挿し、桃色の薄い領巾を肩に掛けて、唇に、ほんの少しだけ紅を差した。  ――月が、昇っている。  教坊の宿舎の誰もが寝静まり、微かな風だけが、庭の木々をざわめかせていた。  愛鈴はそっと部屋から出て...

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七話 (2)

 一歩、一歩とどうにか歩きながら、ぎこちなく息を吸うと、若草と、湿った土の匂いがする。  気が遠くなりそうに長い道のりに思えた、しかし実際には、さっさと歩いてしまえば、すぐに辿り着くはずの小道の最後には、建物に上がる階があった。  震える膝でどうにか上がると、庭に面した部屋には灯りが点され、外が見えるところに卓と椅子が置かれている。 「……慧俊様の、お部屋ですか?」 「そうだ。人を招くときは向こう...

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七話 (3)

そうだ。  会えたら、どうしても伝えなくてはならないことがあった。  愛鈴は思いきって顔を上げ、まっすぐに慧俊を見た。 「わたし、慧俊様に、ずっとお礼が言いたかったんです」 「……礼?」 「この前の秋、うちの村、また不作だったんです。弟からの便りでそれを知って……きっと、今度は妹を売らなくてはならないんだろうと、思いました」  自分が売られた秋よりも、もっと実りは悪かったという。愛鈴はすぐに数少な...

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七話 (4)

 互いに黙れば辺りはとても静かで、わずかな衣擦れですら響くようで、愛鈴は慎重に茶を注いだ。 「……また、出て来られるか?」 「えっ?」 「私が教坊に顔を出すのも、後が面倒になりそうだ。愛鈴にはすまないが、今夜のように、来てくれると嬉しい」 「……」  冗談を言っているような顔では、なかった。 「わたし……また、伺っても、いいんですか?」 「愛鈴に逢いたいんだ」  穏やかな微笑の、だが、聞き違いのし...

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