十話 (1)
その宴は、日没後に始まった。 何百本あるかという花模様の描かれた蝋燭に火が点され、見るからに手の込んだ豪勢な料理の大皿や酒が次々と運ばれ、大きな円卓を埋めていく。 列席者は八人。ともに金糸銀糸の刺繍に彩られた、派手な衣装で身を飾り立てた、若い男たちである。 たった八人だが、部屋は前に百人の貴族高官の集った宴で使われたのと同じ広間で、呼ばれた楽師や宮妓らも、そのときと同じぐらいの人数のようだ...
くわしくはこちら »十話 (2)
愛鈴の浮かない顔には誰も気づかぬまま、舞が終わると貴族の若者らが、わっと声を上げた。 「見事だったぞ、珠燕!」 「さすがだ。こっちに来い、こっちに来い」 珠燕は艶やかな笑みを浮かべ軽く一礼すると、昇貴の前にしずしずと進み出た。 「しばらく見ない間に、一段と美しくなったな!」 「おそれいりますわ」 「見事な舞だったぞ。褒美をやろうか」 肘掛のある椅子にだらりと座り、両側に宮妓を侍らせ盃に酒を注...
くわしくはこちら »十話 (3)
楽の音が始まり、妓女たちが歌う。 ――愛鈴は。 柱の後ろに隠れ、両手で自分の口を塞いでいた。 大きく目を見開いて。 全身の震えを、息を詰めて堪えて。 ……いやだ。 いやだ、いやだ。 すぐにでも、この場から走って出ていってしまいたかった。 昇貴が何を言おうと、決して声を出さず、黙っていること――そう慧俊の言った意味が、いま、はっきりとわかってしまった。 ……兄弟なのに。 あんなに...
くわしくはこちら »十話 (4)
「愛鈴」 ふいに、佳葉が肩を抱いてきた。 「もう少し我慢しなさい」 「佳葉ちゃ……」 「大丈夫よ。あたしたちは、ただの下っ端妓女。後ろで舞う役目さえ果たしていれば、誰もあたしたちに気を留めないわ」 「……」 「ただ舞うの。いい? 何も考えないで。そうすれば、気分悪いのも、じきに治まるから。――さぁ、息を吸って、吐いて。もうすぐ次の出番よ」 佳葉に支えられて、愛鈴は無理にも深く呼吸を繰り返した。...
くわしくはこちら »