十三話 (1)

 猿国の都、華安は朝から活気に満ちていた。  愛鈴は佳葉に連れられて、ひさしぶりに街に出ていた。――愛鈴が自分から宮殿の外に出るのは、故郷への便りを卯州に行く荷運び屋に頼むときぐらいしかない。  市のほうからは、漬物入りの壷や乾した果物を盛った鉢を抱えた子供が、これから商いをするために酒食の店が並ぶ通りへと向かい、傍らの水路には、野菜や魚を載せた舟が行き交っている。 「佳葉ちゃん、お家に帰るの?」...

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十三話 (2)

 屋敷の中にはさらに塀があり、またひとつ門をくぐると、目の前が開けた。  ……うわー、広い。  慧俊の庭を広いと思っていたが、そこは、もっと広かった。庭木も池も、手入れが行き届いているのが窺える。 「立派な庭でしょ」 「う、うん。きれい……」 「これが、お金持ちの貴族様の庭よ」 「……」  愛鈴は、あらためて庭と建物を見まわした。  こちらの羽振りがいいのか、慧俊が質素なのか――とにかく、太子であ...

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十三話 (3)

「……まさか、佳葉ちゃん、そのために」 「信頼できる貴族なんて、あたし一人しか知らないの。ほら、上がるわよ」  佳葉は迷うことなく愛鈴を奥の一室に連れていき、声もかけずに乱暴に扉を開けてしまう。 「うわ! ……あ? 佳葉?」 「おはよ。御無沙汰」 「……おいおいおい……相変わらず礼儀知らずだな」 「安心して。あんた以外への礼儀は心得てるわ」  あんまりなやりとりに、また呆然としつつ、佳葉の後ろに隠...

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十三話 (4)

 慈雲は、身を縮めるようにして椅子に座っている愛鈴のほうを向く。 「……きみには、もっと関わりがない話のようだけど」 「わ……わたし――」  何と、言ったらいいのだろう。  佳葉とこの慈雲が、親しいのはわかった。だが、慧俊自身は愛鈴との関わりを隠している。佳葉にも、他言しないようにと念押ししていたのだ。  うつむいてしまった愛鈴に、佳葉は、静かに茶碗を置いた。 「……あんた頭は軽いけど、口は堅いわ...

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十三話 (5)

「さて、と。――俺はそろそろ仕事に行かなきゃならないんだけど」 「あ、そうね。朝早くに悪かったわ」 「いや。宮殿に戻るんなら、うちの車に一緒に乗ってくか?」 「いいわ。一度家に寄って帰るから。いいでしょ愛鈴?」 「あ……うん。どうも、お邪魔しました」  佳葉と愛鈴が部屋を出ようとすると、慈雲が佳葉を呼び止めた。振り返った佳葉に慈雲は、食用というより部屋の飾りに置いてあったのか、卓上の大きな白磁の皿...

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