二十話(1)

繕い物が、椅子の上に山と積まれている。 今日は稽古が急に休みになり、それなら繕い物をする間ぐらいあるだろうと、妓女たちから次々押しつけられ、愛鈴は朝からずっと、一着一着袖口や裾のほつれを直していた。 妓女たちが鼠を捕まえた愛鈴に怯えていたのは、結局ほんの二、三日のことで、つまり鼠云々より、下女がいないほうが困るのである。  愛鈴は手を休め、ため息をついた。 ……お稽古、したかったのにな。  共同稽...

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二十話(2)

 宮殿からほど近い市の片隅に、人々の賑わいから少し離れて、小さな薬屋があった。店の前の露台に気難しそうな老爺が腰掛け、乾いた薬草を選り分けている。  愛鈴と佳葉が近づき挨拶すると、老爺は目だけを上げじろりと二人を見て、無言のまま顎で店の中を示した。  薬の匂いのする店の奥で、伊福は椅子に座り、何かを飲んでいた。その右の脚には添え木がされ、布で巻かれている。 「あら、昼間からお酒?」  佳葉がからか...

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二十話(3)

「あら、何でよ?」 「帝様は、もうあまりお体が利かんのでな。広いお部屋まで行けんから、宴は春鶯宮の小さめのお部屋でやるんだそうだ。だから、人も多くは入れん。要るだけの楽師と、舞手と歌手が四人ずつ、曲芸の者も五人……」 「四人?」  愛鈴と佳葉が、声を揃える。 「何よ、じゃあ舞手は一人ずつ踊るってこと?」 「わたしたち、後ろで踊れないんだ……」  それでは舞うどころか、宴の部屋に入ることさえできない...

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二十話(4)

愛鈴と佳葉は、思わず顔を見合わせた。 「伊福さん?」 「うっそ! あの爺さん、官吏だったの? って、え? じゃあ、宮妓に簪贈って振られたのって――」 「……」  老爺はもう顔を上げようとはせず、葉をむしりながら、つぶやくように言った。 「はなから、無理だったんだ。……こっちは出世の見込みもない小役人で、あっちは貴族で、最高の舞手だ。やめておけと、言ったんだが」 「……」 「それも、とうに捨てられた...

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