二十九話(1)
寝台に横たわりながら、愛鈴はぼんやりと、窓の外の朱に染まった景色を見ていた。 この朱が黒に変わるころには、褒姫は、慧俊のもとへと行くのだろう。 愛鈴も度々上げてもらった慧俊の部屋の、確か、隣りの部屋が、寝室だった。もちろん愛鈴は、そちらには入ったことがない。 あの美しい貴族の娘は、今夜、あの部屋に入るのだろうか。 こうしている間にも時は過ぎ、朱の色は次第に、暗い青色になってゆく。 その...
くわしくはこちら »二十九話(2)
「あ――愛鈴っ?」 「!」 ちょうど食事から戻ったのか、佳葉と数人の妓女たちが、廊下を歩いてきていた。 「佳葉ちゃん――佳葉ちゃん、思い出した!」 「え?」 「あの、あのひとっ……いたの。親王殿下の部屋に、いたの!」 妓女たちが何事かとざわめく中を押しのけて、佳葉が愛鈴に駆け寄る。 「あのひとって、曹褒姫?」 「いたの。わたし見た。伊福さんと、行ったとき……」 「貴族の女が部屋にいたっていう、...
くわしくはこちら »二十九話(3)
「……っ」 宿舎から表の道に出ようとしたところで、愛鈴は目の前を、交差した二本の棒に塞がれた。 「なっ……なんですかっ」 「止まれ! 何だおまえは、宮妓が? どこへ行く!」 「わたしは――」 愛鈴は、行く手を阻んだ二人の番兵の姿を見た。 ……番兵? こんなところで武装しているのは番兵ぐらいのはずだが、よく見かける宮殿の番兵の格好とは、鎧の形か服の色が、少し違っている。 愛鈴が躊躇してい...
くわしくはこちら »二十九話(4)
「つまり、どうあっても邪魔させないつもりね」 「お知らせすることもできない……」 「背けば斬っていいなんて、警護じゃなくて見張りじゃないの。妓女の恋人がいるって噂、まだ忘れてないのかもしれないわね」 「……」 すでに外は、闇の色を増している。 「もうちょっと暗くなってから、こっそり出れば……」 「でも、今夜は確か満月よ。いくらあんたの足が速くても、あちこちに番犬がいたんじゃ、月明かりで見つかるか...
くわしくはこちら »二十九話(5)
「行くなら……あたしも、一緒に行くわよ」 「だめ。佳葉ちゃんに何かあったら、わたし、慈雲さんに怒られる」 「じゃああんたに何かあったら、あたしは太子殿下に何て言えばいいのよ」 「……」 目を伏せ、愛鈴は、黙って佳葉の横をすり抜けた。 「待ちなさい、愛鈴!」 「佳葉ちゃんはここにいて」 剣を取りに道具部屋へ向かおうとした愛鈴は、しかし、十人ほどの妓女たちに、廊下を塞がれた。――愛鈴が『雪月梅花...
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