三十話(1)
どこか忙しなく風が吹き、木々が揺れ、流れる雲が満月の姿を隠してはまた現す。 いつもなら、皆そろそろ眠りにつこうかという教坊の宿舎の門前に、二人の番兵が退屈そうに立っていた。 と―― 一人の妓女が、するすると番兵のあいだをすり抜け、外に出てきた。 「! おい……」 番兵は慌てて棒を構え、出るなと叫ぼうとしたそのとき、妓女が突然振り返り、番兵らの顔に向けて何かを投げつけた。 辺りに白煙が散...
くわしくはこちら »三十話(2)
「……すごいわね。教坊の比じゃないわ」 「どうしよう……」 「どうもこうも、こういうときのために、あたしがついてきたんでしょ」 佳葉は衣を被りなおし、ゆっくりと身を起こした。 「あたしが、あいつらを引きつける。その隙に、あんた、あの門から入りなさい」 「だっ……」 駄目、と言おうとした口は、佳葉の手に塞がれた。 「静かに。いい? 振り向いたら駄目よ。あたしのことは気にしないで。大丈夫。あんたの...
くわしくはこちら »三十話(3)
番兵たちが皆、佳葉のほうへと向かう中、愛鈴は逆の方向へと飛び出した。 すれ違った番兵があっと叫んだが、愛鈴はまっすぐに、門へと走る。 一人の番兵が愛鈴に追いつき、被っていた衣の裾を掴んだ。だが愛鈴はそれを脱ぎ捨て、衣だけが番兵の手に残る。 もう一人の番兵が、長い棒で愛鈴の行く手を阻もうとする。 ほとんど音も立てず、愛鈴は地を蹴った。 その身はふわりと棒を飛び越し――愛鈴はそのまま、門の...
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