三十一話(1)

 佳葉は遠まわりをしながら、教坊へと逃げていた。  愛鈴ほどではなかったが、佳葉も足の速いほうだった。  しかし、いくら足が速くても、鍛えた兵士と女の足では、どうしても分が悪い。  振り向くたび、番兵たちとの距離は縮まっている。  駄目かもしれない――と、佳葉は思った。  遠まわりになってしまったぶん、教坊に帰り着くのは遅れてしまう。これだけ差を詰められてしまっては、帰る前に捕まりそうだ。  わあ...

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三十一話(2)

「……次に死にたいやつは、どいつだ?」  地を這うような冷たい声が、幼いころからよく知る男と同じ声だと――佳葉は、しばらく気づかなかった。 「女でさえも斬って捨てろと、それも、昇貴の命令か?」  目の前に、広い背中。  何故。 「……慈雲?」 「佳葉」  応えた声は厳しさを含んではいたが、確かに、恋しい者の声に違いない。 「大丈夫だ。少しのあいだ、目をつぶってろ」 「……はい……」  慈雲が動く気...

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三十一話(3)

「けどな、もう少しでおまえが殺されるってとこを見た、俺の気にもなってみろ。恐ろしくって、放り出せるか」 「……」  佳葉はようやく、慈雲が怒っていることに気づいた。 「あの……心配かけたなら、悪かったわ」 「そう思うなら、二度とこんな真似はしてほしくないもんだな」 「……あたしだって、好きで殺されかけたわけじゃ……」 「とにかく、おまえ、宮妓は辞めろ。これ以上おまえをこんな危ないところに置いとくわ...

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