三十四話(1)

「あんたの部屋に隠れてるのよ、太子殿下は」 「……隠れてる?」 「どんな考えがあるのか、あたしにもわからないけど――」  愛鈴の洗い髪を、佳葉が丁寧に櫛でとかしていく。 「昨日あんたが東和殿で倒れた後、太子殿下が自分で、あんたをここまで運んできてね」 「え……」 「本当よ。――こら、動かないの。それで、しばらく身を隠さなきゃいけないけど、宮殿から出てもいけない。だから教坊でかくまってくれって。もっ...

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三十四話(2)

「……だいじょうぶ?」 「大丈夫、大丈夫。可愛いわよ」  佳葉に促され廊下に出ると、妓女たちが忙しなく、それぞれの部屋を出入りしていた。皆、どこか深刻な顔をしている。 「……何かあったの?」 「あ――佳葉、愛鈴」  通りすがりの妓女が足を止め、声をひそめた。 「帝様が亡くなられたわ」 「えっ……」 「さっき、知らせがあって。――私たちも喪に服すようにって、しばらく稽古はなし」 「……」  佳葉が愛...

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三十四話(3)

「……どこから話そうか」  愛鈴の手を取り、慧俊が微笑む。 「昨日、張佳葉から少し聞いたんだが――愛鈴は、曹褒姫が昇貴の部屋にいるところを見たのか?」 「あ……はい。あの、伊福さんと一緒に……」  指先を軽く握られているだけなのに、それだけで身の置きどころがなくて、愛鈴はうつむき、目を逸らしてしまう。 「でも、あの、そのときは、曹褒姫様だと知らなくて……」 「昨日の宴で?」 「……宴では、わかりま...

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三十四話(4)

やさしい、けれども、強い瞳。  ……望めるなら。  望むことを、許されるなら。  愛鈴は、繋いだ指に――ほんのわずかだけ、力をこめた。  それだけ。  それ以上は、何もできなかった。  だが、慧俊はほっと息をつき、微かに表情を和らげ、愛鈴の頭を、そっと抱き寄せた。  ちりん、と、澄んだ音で鈴が鳴る。  愛鈴は、慧俊の腕の中にいた。  何も考えられなかった。何か考えたら、気持ちがあふれて、泣いてしま...

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三十四話(5)

「何だ、さすがに早かったな」 「え、あの、なんで……」 「太子殿下の予定どおりってことですか?」 「昨夜、曹褒姫を捕らえた後、昇貴に偽の遣いを出しておいた。――私が、曹褒姫に毒を盛られて死んだ、とな」  慧俊は、再びゆったりと椅子に腰掛けた。 「一応は身代わりの遺体も用意しておいたから、それを検めたかどうか知らないが、昇貴は信じたようだ。それで帝の崩御とほとんど同時に、自分の即位を宣言したんだろう...

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