三十六話(1)
緑の水面に浮かぶように、白や薄紅の蓮が咲いている。 吹く風のあたたかさは、夏が近いことを告げていた。 欄干から身を乗り出すように、蓮の花を見ていた佳葉が、部屋の中へと戻ってきた。 「いい庭ね。さすが、帝の奥さんの部屋は違うわ」 「慈雲さんの家の庭のが、もっと広かったじゃない」 椅子に座って、佳葉は三杯目の茶に手を伸ばす。 「広いんだけど、小さいころから見慣れちゃってるから、あんまり新鮮さがな...
くわしくはこちら »三十六話(2)
「お后様なんだから、格好ぐらい、もうちょっと華やかにしたら? 宮妓のときと、あんまり変わらないじゃないの」 あたしのがよほど派手な格好をしていると、髪には簪ひとつ、ほとんど無地の衣の愛鈴を見て、佳葉が言う。 「そんな……いつも絹を着てるっていうだけでも、結構落ち着かないんだよ?」 「ひと月かそこらじゃ、性分は変わらないってわけね……」 いままでのことを考えれば、天と地ほどの違いがある暮らしなの...
くわしくはこちら »三十六話(3)
「あら? ――あれ、伊福の爺さんじゃないの?」 「あ、うん。ここの庭も、見てくれてるの」 「元気そうじゃない」 席を立って、声をかけようと端近に出た佳葉を、愛鈴が慌てて止める。 「待って待って。……今日は、駄目」 「どうしてよ?」 「だって……ほら」 愛鈴の指したほうを佳葉も見ると、伊福の後ろを、白髪交じりの女が一人、歩いていた。 「……貞琴先生?」 「そう」 「嘘っ。……なんで?」 「伊福さ...
くわしくはこちら »三十六話(4)
佳葉が帰るのを、建物の外まで見送ってから、愛鈴は部屋に戻った。茶器を片付けていると、まだ幼さの残る侍女が、慌てて入ってきた。 「――す、すみませんっ! あの、あたし片付けますから……」 「いいのよー。わたし、やるから」 「駄目です! お后様にそんなことさせてって、あたしまた怒られますー!」 必死の様子の少女に、愛鈴は微笑んで、茶器の盆を渡した。 「じゃあ、お願い。それと、代わりの茶碗を……」 ...
くわしくはこちら »三十六話(5)
「……あ」 庭の向こうの渡り廊下を、一人の青年が、こちらの建物へと歩いていた。 愛鈴は身を翻して中に戻ると、すぐに茶葉を選び、湯を汲んだ。 やがて、ちょうど茶の支度が整ったころ、部屋の扉が開く。 「おかえりなさいませ」 「ただいま、愛鈴」 慧俊が、出迎えた愛鈴に微笑みかける。 その顔を見て、愛鈴は小首を傾げた。 「……何か、ございましたか?」 「わかるのか?」 「お疲れのようでしたので……...
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