三話 (1)
「……ひさしぶりだな、愛鈴」
「はい……」
憶えていてくれた。名前までも。
もう一度会えたら話したいことはたくさんあったはずなのに、何ひとつ言葉にはならず、愛鈴は、ただ慧俊を見上げていた。
「もう、三年経つか」
「……はい」
「元気だったか?」
「は……はいっ」
「そうか」
慧俊は、先ほどまでの物憂い顔が嘘のように、穏やかな笑顔を見せている。愛鈴も、ほっと唇をほころばせた。
――また、歓声が聞こえた。
慧俊と愛鈴は、しばらくの間、互いを見つめていた。
壁に遮られた広間の喧騒は遠く、ふたりの距離は、手を伸ばせばすぐ触れられるほどに近い。
だが愛鈴は、震える両手をかたく握りしめていた。
慧俊への思慕は、愛鈴の心のうちに、この三年、静かに積もっていた。――愛鈴自身、その想いに気づかずにはいられなかった。
いっそ気づいていなければ、ただの懐かしさで言葉を交わすこともできただろうに。
「……」
先にうつむいてしまったのは、愛鈴だった。
会いたかったのは本当だ。
再会を果たせて嬉しいのに、どうしてか、あの夜のように胸が痛い。
「……今日は、宴に出てよかった」
慧俊のつぶやきに、愛鈴は顔を上げた。
「私はあまり、宴は好きではないのだが……今日は、思いがけず愛鈴に会えた」
「……はい」
「この後の出番は?」
「あ……あと、三度……。後ろで、踊るだけ、ですけど……」
慧俊は頷いて、微笑んだ。
「それなら、私も愛鈴の出番があるうちは、宴にいよう」
「みっ……見て、くださるんですか?」
「さっきから、愛鈴しか見ていなかったが」
「え……」
愛鈴の朱に染まっていた頬がますます赤くなり、慧俊が小さく笑った。
「私は舞にそう詳しいわけではないが、大勢の中にいても、目を引いたよ。……頑張っているのだな」
「……」
涙が出そうになって、愛鈴は思わず袖で口を覆う。
見てくれていたのだと――
ここに来てからの三年が、急に明るいものになったようだった。
「……私も、頑張らなくてはな」
「え……?」
意味を問う間もなくひときわ大きな拍手と歓声が聞こえ、愛鈴ははっと振り返る。おそらく曲芸が終わったのだろう。その次は、また出番だった。
「……行くのか?」
「は、はい」
「それなら私も戻ろう」
「……」
再会の喜びと、たくさんの舞手の中から見つけてくれた感謝と、決して口にはできない思慕と――すべての想いをこめて、愛鈴はもう一度慧俊を見上げ、そして、頭を下げた。
「また……がんばり、ます」
それだけ言って、振り切るように踵を返し――
「愛鈴!」
手を――掴まれた。