三話(1)
鴨川を渡った都の東、北白河にある二条中納言の別邸は、山に近く人里からも離れ、静寂に包まれていた。
「のんびりできてよかったじゃない。――ね、淡路、葛葉」
廂に出て、御簾越しに庭を眺めていた詞子が振り向くと、二人の女房は、それぞれ曖昧な笑みと不機嫌そうな表情を浮かべた。
「ええ、まぁ……姫様がそう仰いますなら……ですが……」
「確かにここは落ち着いたいい所ですし、余計なことを言う者もいませんけど、恩知らずの我儘姫に追い出されたのだと思うと、いまだに腹が立ちます」
「律儀に腹を立てることなんてないわ。あの子のああいった物言いは、いまに始まったことじゃないでしょ?」
でも――と、詞子は眉を下げて微笑んだ。
「わたくしはここが気に入っているけれど、ふたりには退屈かもしれないわね。あなたたちはついてきてくれると思っていたから、否とも言わせず連れてきてしまって、悪かったわ」
「そ、そんなことないですっ! ね、葛葉?」
淡路が慌てて手を振り、横で葛葉も頷く。
「そうですよ。本邸にいてもあちらの女房どもと喧嘩するだけで、あんなものは退屈しのぎにもなりません」
「それに、ほら、瑠璃と玻璃も、あんなにのびのびとして……」
三人が視線を向けた先には、あたたかな陽射しが降り注ぐ簀子で、腹を出して寝そべっている黒猫と、丸くなって目を細めている白毛に黒のぶち猫。
「……まぁ、ずいぶん気持ちよさそうだこと……」
「繋いでおかなくていいんですか?」
「本邸ではないもの。逃げる様子もないし、繋いでしまっては、あんなにくつろいで寝ることもできないんじゃないかしら」
詞子は笑って、また庭に目をやった。
夏、それもよほど暑いときでもなければ使われることのなかった白河の別邸は、屋敷を囲む築地の泥が落ち、ところどころが崩れ、簀子も傷み、庭も荒れ放題だった。
これではあんまりだと、果敢にも葛葉が国友に抗議したものの、すぐにすべてを修繕するのも難しいというので、ひとまず北の対と東の対については、使わないようにするということにして、本邸の家人を何人か寄越してもらい、普段使う寝殿だけを住めるように整えたが、家人らも数日で帰ってしまったため、その後、残った家人だけで庭を見苦しくない程度には草を刈り、池の掃除もしたら、落ち着くまで十日以上かかってしまった。
中納言家のれっきとした姫君の住まいなのにと、葛葉どころか淡路までも怒ったことには、本邸にはかなりの人数の家人がいるのに、詞子に付けられたのは、たった三人、それも夫婦者とその息子だけで、子供はまだ七つだった。
「有輔と小鷺はすすんでこちらに来てくれたけれど、筆丸はかわいそうだったわね。まだ同じ年ごろの子たちと遊びたい盛りでしょうに……」
「筆丸も望んで来ていますよ。昨日もここの池は大きいと言って喜んで、ねぇ」
「ええ。掃除をしているのか泥遊びをしているのか、どっちかわかりませんでしたよ」