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昔むかし、あるところに、アジェンセンという、出来たばかりの小さな国がありました。 その国には、ルシードという名の年若い快活な大公様と、メリルローズという、それはそれはお美しいお妃様がいらっしゃいました。 お二人は政略結婚で結ばれましたが、とても仲むつまじく、戦ばかりしている大公殿下をお妃様がよく助け、アジェンセンの国はとみに栄えていったのです。 しかし、そんなお二人には、だれにも言えない秘...
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「殿下、起きてください殿下。残念ながら、お目覚めのお時間です」 「ぐ」 すぐ耳元でささやかれた声に、ルシードは唸った。 (むう…、まだ…ねむい) 前述の通り、大公というのは大変な激務である。 したがって朝の起床時間になってもすぐに目が開けられないのは、断じて自分が寝汚いせいではない…、とルシードは思う。 「うう…、マシアス、あともう少しだけ……」 「なりません。すでに十二分と三十五秒の寝坊で...
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「もういい、マシアス! 俺は起きた、起・き・た・ぞ!」 枕元に立つマシアスを見上げれば、案の定、彼はしてやったりという顔でいた。 「おそようございます、殿下。いい朝ですよ」 「……おまえな、もうちょっとましな起こし方があるだろう」 彼は、主人のとは正反対の表情で、ふふん、と笑った。 「欲望に忠実すぎる殿下がいけないのですよ。もう少し自制というものを覚えて下されば、このような乱暴な事は致しません...
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「おい、マシアス」 朝の身仕度係の女官を呼び入れようとする彼に、ルシードは急いで問いかけた。 「何でしょう」 「いい加減教えろ。今日はいったい外で何があるって言うんだ。どうして月曜日でもないのに、参賀がある?」 「殿下……」 マシアスは一瞬、ぽかんと口を開けて見せた。 しかしすぐに、この上ないほど情けないものを見るような目で、ベッドの上でシーツをひっかぶったままのルシードを見下ろしてくる。そ...
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ルシードには、いまでも信じている、たったひとつの約束がある。 それは、自分がアジェンセンを属国としている大パルメニアのエスパルダ王宮に、人質として預けられていたころ。 頼る人も、信じられるものも何もなかった幼少時代…。ひとりぼっちだった自分に、唯一優しくしてくれた王女メリルローズと交わした、たった一つの約束だった。 『――いつか、貴方をお迎えに来てもよろしいですか、メリルローズ様』 神聖パ...
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「わ、悪かったな。だが、時間には間に合ったんだからいいだろう!」 にこやかに市民に向かって手を振りながら、ルシードは言った。 だが、多少拗ねて見せたところで、追及の手をゆるめてくれる彼女ではない。 「そういうことを言っているのではありません。殿下、心構えの問題です。典礼をおろそかにされては民の信頼を得られません」 「だから、悪かったって言ってるだろう。ったく、もういい、この話は」 と、ルシー...
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しかし、 (くそ、ったく…) ルシードは、舌打ちした。 たしかにジルは、ルシードが愛した、あのメリルローズではない。 姿形だけはそっくりだが、まったくの別人だ。 形の上では夫婦であるため、ルシードはジルと寝室をともにしていたこともあった。しかし、結婚からこれまで、ジルとの間にそれらしいことがあったことは、一度もない。 けれど、妻だ。結婚して二年、だれよりも側で寝食を共にしてきた仲だ。 ...
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しかし、ルシードが彼女を捕らえる寸前、すかさず、こういうことにも有能な秘書官であるマシアスが口を挟んでくる。 「落ち着いて下さい、殿下。仮にも妃殿下のお誕生日に、大喧嘩というのはよくありません」 「だが、マシアス!」 「妃殿下も、そんなことはおっしゃられずに。どうか今日一日、殿下と仲むつまじくおすごしください。こういうことに聡い女官たちが、どんな噂をするかしれませんよ」 「う…」 「あ…」 マ...
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――なんとも空気の重い朝食を終えた後、偽者の大公妃である、ジルことジュラルディ=クラウンは、いつものようにたったひとり、供も伴わず、王城の北の端にある塔へと足を運んでいた。 公務を終え、少し気をゆるめる時間ができると。ジルはたいてい、熱心に自分の身を飾りたてようとする女官たちから逃れるために、この塔へとやってくる。 公妃である彼女のそばには、つねに公妃付きの女官が一人二人ついて回る。だが、そ...
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「誕生日というものは、そんなに大切なのものなのか?」 ジルは、ほんの少し目を開いて、後ろを振り返った。 そこには、いつのまにか、水のような青い髪をした、背の高い女性がふらりと現れていた。 「涙を失ったお前が傷ついた顔をするほどに、人間にとって大切なのものなのか? ジュラルディ」 そう言った彼女は、ふわりと宙に浮いた格好のまま、悪戯っぽい目でジルを見つめている。 「ミゼリコルド」 ジルは、彼...
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