(17)

「あの…、誕生日を祝うため…、ですか?」
「…そ、そうだ」
「しかし、今日はわたしの誕生日ではありませんが……」
「そんなことくらい知ってる!!」
 きっぱりと言い切られて、ジルはさらにきょとんと目をまるくする。
 やっぱり、ルシードは変だ。今日がジルの誕生日でないと知っているのなら、なぜわざわざこんなことをするのだろう。
(あ、もしかして)
 ジルは、いくつか浮かんだ予想の中で、一番正解に近いだろう答えを、舌の上にのせた。
「わかりました。つまり殿下は、メリルローズと食事をご一緒なさりたかったのですね」
 彼女が言ったとたん、今度はルシードが愕然と口を空ける。
「はあ? なにいってんだ、お前」
「違うのですか?」
「なんでここに彼女が出てくる。俺は、お前の誕生日を祝ってやってるって言ってるだろう!」
「え、本当に、わたし?」
「お前だよ!」
 全面否定されて、ジルは自分の予想が外れたことを知った。
「てっきり、わたしの顔と食事がなさりたいのだと思ったのですが」
「違う!」
 きっと、ルシードにはメリルローズとピクニックごっこをした思い出でもあって、それを自分と再現しようとしていたのだと思ったのだが、それも違うらしい。
「では、なぜです? 今日はわたしの誕生日ではありません。ですから、あなたに祝っていただくような理由はなにも…」
「理由は、ある!」
 ルシードは、うまくまとまらないいらいらをぶつけるように、膝を叩いた。ジルは、むむむと唇を引き結んで考え込む。
「む。理由…」
「…おまえ、もしかして、けっこう馬鹿だな」
 呆れたように、彼が言った。
 ジルは、むっとした。馬鹿に馬鹿といわれることほど、頭に来ることはない。そのうれ、その台詞は自分の十八番ではないか。
「馬鹿とはなんですか。自分のことを棚にあげて。では、いったいどういう理由があるっていうんです?」
「――つまり、俺が祝いたいからだ」
「はあ?」
「俺が祝いたいんだ。だってこのままじゃ、いつになってもお前がここにいることを祝えないじゃないか!」
 彼の、強引すぎる物言いに、ジルは呆れた。
「でもそれは、仕方のないことで…」
「仕方がなくなんてない!」
 ルシードはますます口調を強めて、
「いいか。もともと、誕生日なんてものは、誰かに祝ってもらうためにあるもんだ。誰にも祝ってもらえない誕生日なんか、ないのと同じだ。そんなのは俺は嫌だ」
「ルシード…」
 彼は、徐に空になった自分の椀にウズラを切り分けながら言った。
「このウズラの詰め物は、キーナという。祝い、という意味だ」
 彼の声が、思いかけなく低く、ささやきのようになる。
「一度、ちゃんと自分で作ってみたかったんだ。だから、ちょうどいい機会だと思った」
「何がちょうどいいのです?」
「俺が、お前になにかしてやるために」
 思っても見なかったことを言われて、ジルはひゅっと息をのんだ。
「草原じゃ、誕生日なんていちいち日ごとに祝ったりしない。そのかわり、季節事にまとめて祝う。春に生まれた子供は春の恵みとともに。秋に生まれた子供は森の実りともに。その年生まれた子は、季節ごとに歳を取るから、みな自分の誕生日なんていちいち覚えてない。それがふつうなんだ」
 だから…、と彼は口の中でごにょごにょと良い繋いだ。
「だからお前も…、べつに変じゃない」
「ルシード…?」
「形だけのものだ。日付や贈り物に意味なんてない。心がなければ。そう、俺は思っている」
 彼の置いてけぼりにされた子供のような顔つきに、ジルは、彼もまた誕生日という日に、自分と同じような息苦しさを抱いているのだと知ったのだった。
 ルシードは幼い頃、パルメニアの王宮へ人質として出されていた。
 そして彼には、いまはこの王城の奥深くに幽閉されている、双子の弟リドリスがいる。
 同じ誕生日、そして同じ守護をもつ唯一の兄弟。
 しかし、両親に愛されたのはリドリスただ一人だった。彼は、両親からはまるで愛されなかった。アジェンセンの嗣子として生まれたのにもかかわらず、放っておかれたのだ。